「異常事態」
半径五十メートル四方の森が陥没し、瓦礫となり果てる。
砂埃のように木々が舞い、勘の鋭い生物の類は最早その周囲に一匹たりとも存在しない。
「ハァッ、ハァッ、はぁッ……!!!」
王都ヘヴンゼル外縁の森、トルト・ザードチップと褐色の男の戦い。
押されているトルト・ザードチップは、荒い息を吐きながら砂塵の中に敵を探背後への、一撃。
トルトの鋼のような筋肉さえあっさりと打ち砕く巨大で鋭い拳が、彼の背骨にひびを入れながら彼方へ吹き飛ばす。
「ぐゥア――――ッッッ!!!!?」
大木の群落が根を張った強固な地盤を根こそぎ抉り飛ばしながら吹き飛んでいくトルト。
破壊の神の御業のような一撃を繰り出したのは――
「はァ゛――――ハァ゛――――は ゛――――」
――――尋常でない疲労を隠しもしない、片目がガラスのようにひび割れた大男――バンター・マッシュハイル。
その異常に、トルトはとっくに気付いていた。
(間違いねぇ……あの野郎、急にパワーもスピードも段違いに上がりやがった……今の俺と互角、いやもしかすると――――)
音も無く背後。
!!!「!!?ッッ糞がッッ」
「アアァァァァアアアッッッ!!!!」
獣のような叫び声をあげながら両手で首をねじり切ろうとしてきた褐色の手をトルトが辛うじて手で制し、二人が手四つの姿勢で拮抗。
したのは一瞬。
「ッッッッ――――がァぁぁァッッッ!!?」
「アアアアアアアアアアアアアア!!!!」
つかんだトルトの手を褐色がその握力で片端から握り砕く。
更に頭突きで肩へ頭部を埋没させ、トルトは自身の体に何が起きているか分からず数歩背後によろける。
トルトの眼前で、褐色が両手を合わせ――――それらをトルトの中心に、置いた。
「双蓮」
――――トルト・ザードチップの体が外から、内から弾け飛び。
臓物のはみ出した、辛うじて人の形を保った死体は、バンターの目の前でゆっくりと地に倒れた。
「………………ハァ――――ハァ――――ハ――――――ァあッッ!!」
呻きと共に、バンターが地に膝を屈する。
狂気に身を委ねた代償が、確実に彼の体を蝕んでいく。
「…………報いを…………俺は倒れない俺は消えない貴様等…貴様等の息の根ェェェ!!!! 貴様等ヲォォォッッ!!!」
文字通り、怒りを命に代え――バンターは己を奮い立たせる。
静かに立った、男の背後で。
「ッッッッ!!!!????」
「壊れねぇんだよなあ」




