「マジック・ジュエリー・ボックス」
「――『凍の舞踏』」
手を翳す。
「ッ!?」
粉雪の煌めきが、渦を巻く。
距離を飛び越えるようにして接近するヴィエルナが、真正面から迫った冷気の波動に一瞬で方向転換し、凍結魔法を回避する。外れた白と水色の光は地面を這うように進み、コンクリートの床に歪な氷の突起を形作った。
「凍の舞踏……氷属性の中級魔法を詠唱破棄で……」
「まだだ――」
「! っ」
地面から渦巻くようにして現れた氷の柱に目を釘付けにされていた様子のヴィエルナへ、休む間を与えず弾丸を乱れ撃つ。
奴の回避ルートを先回りして弾丸を放ったつもりだったが、ヴィエルナはまるで軽業師のような軽快な動きで弾丸の間を縫い、軽々と弾丸の包囲網を脱してしまう。
――乱発は禁物。他の魔法での魔力消費も考えれば、撃てて精々あと数十発だ。
だが何故だ。何故あいつはあれを使わ――
「――ッ!!」
思索の隙にヴィエルナが迫る。
最小限の動きで拳を構える黒髪の少女に、俺は手を翳す隙すら与えられず、故に――
「――『兵装の壁』」
「!!!」
――稲妻が弾けるような音と共に。
球形に俺を覆った対物理障壁がヴィエルナの拳の威力と衝撃を吸収し、俺は障壁と共にボールのように吹き飛ばされた。空中で転回し、危なげなく床へと着地する。
罅割れ、薄氷のように割れ消えていく障壁。
「……一撃でオシャカか」
この訓練施設の天井から落下しても壊れなかった障壁だったんだがな……。
あいつの拳は、一体どうなっていやがるというのか。
しかし、やはりあの手袋を付けて威力が上がっている気がする。
「……英雄の鎧。魔弾の砲手。凍の舞踏、兵装の壁……すごいね。こんな短い間に、これだけの魔法。使えるようになってる、なんて――あのときは、魔力を練る以外、何も。できなかったのに」
「もう一週間以上前のことだろう。それに、兵装の壁なんて無詠唱で使えてナンボの魔法だ。それを詠唱破棄しか出来ない時点でお察しだよ。大体、凄いねはこっちの台詞だこの怪力女。俺の物理障壁を拳一つで破壊するってのは全体どういう訳だ。英雄の鎧を使っているとはいえ、俺の身体能力はお前程強化されていないぞ」




