「不能せしめよ」
「テメ調子にノ――」
英雄の鎧をまとった重い一撃が、開きかけのマトヴェイのあごを打ち抜く。
〝女に世界なんて見える必要はない〟
聞き慣れないガシャンという音が鳴り、マトヴェイの口から白い欠片がいくつもこぼれ落ちる。
〝男に媚びるしか能のねぇメスの分際でイキりやがって、見るに堪えないな〟
「ぁあ゛はっ、俺の歯ぁァ゛!!!」
瞬転。
殴る。
殴る。
殴る。
〝カスがどんだけ精神障害になろうが知るかよ。全員死んどけw〟
殴って、殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って――――――――殴り続けて、マリスタは気付く。
〝数年かけて俺好みに調教した後は俺の子を産んでもらうんだ。そこまでは生かしてやるからよ――――お前が先にクスリで破滅しなきゃな!!〟
自分程度の力では、同じく英雄の鎧下にあるマトヴェイに大したダメージは与えられていないと。
(――――――だったら)
血がにじみ始めた拳で殴り倒したマトヴェイの前に仁王立ち、マリスタは。
「ぐ げ… …マ リスタ・クソ・メス・ある、」
足を上げ。
「こ、の……ひんにゅう、低能、メス、家畜どれ、いがッッ」
マトヴェイの、持つ。
二つの、小宇宙を。
「トんでけ。マトヴェイ・フェイルゼイン」
踏み、抜いた。
「 ぺきェ 」
断末魔を上げ、泡を吹いて沈むマトヴェイ。
首謀者の息子との戦いは、こうして静かに幕を閉じた。
「マリスタ……」
「! あ……サイファス大丈夫!? えっとその、ドラ、ゴン……?」
「だいじょうぶ……まだ、たたかえる」
「(うは……私ドラゴンと会話してる)ってかエェッ!?!? しゃべってる?!?!」
「きついだろうが堪えてくれゼルテ。まだ敵の親玉が残ってるんだ……くっ」
「サイファス、あんたもなんかだいぶキツそう……」
「俺はいい。それよりもビージだ、ビージを診てやってくれ」
「! ビージ君ッ」
崩落の続く、いまだ緑の障壁で隔てられた空間の中、膝を屈しながらなんとか体勢を保っているビージにマリスタが近付く。
「ビージ君ッ!」
「マリ…………アルテアス。ごほっごほ」
「しゃべらなくていい。きついだろうけどまだ英雄の鎧は解かないで。ガレキが落ちてくるかもしれない」
「ありがとう。マトヴェイの野郎を殺さねぇでいてくれて」
「――――この後の安全まで保障できないから、私。ビージ君はアレかもしれないけど、私は――」
「解ってる。だからありがとう――う゛、づぶグ、」
「! 待って、待っててよ――――イミアさん!」
マリスタがイミアの守られた召喚獣の口にもぞもぞともぐりこみ――涙の筋が残る顔を手で覆い、やっと呼吸が戻ってきているらしいイミアに声をかける。
召喚獣内をただよう臭いは無視すべきものだとすぐに察せた。
「イミアさん。動けますかっ」




