「制裁の拳」
眼前で、筋肉が膨張していくようにさえ見えるビージの巨体。
大きい者を前にした根源的な恐怖を煽られながらも、マトヴェイは冷静に竜種を呪い殺したこと、マリスタを人質に取っていることを伝えようと――
「――あ?」
目を向けた先でマリスタは竜種に助け出されていた。
人質は。
「――く」
動揺と恐怖にひるんだ、一瞬の隙を突き。
「そ、」
「痛みの呪い」で貫き、動けるはずの無い竜によって。
「がァッッ!!?」
風属性魔法で、助け出されていた。
「――バディルオン。君とそいつのローブの色は何色だった?」
「どっちもベージュです。ごぶ、」
ビージの顔から、体から血が滴る。
力めば力むほど、圧をかけられた血管から血が流れ、ビージのローブをどす黒い色へと染めていく。
「……は、はははは……馬鹿が。ベージュだから互角の勝負ができるとでも言うつもりか? カスのお前が、そんな体たらくで! 何度も言わせんなノータリンが。おめーはどこまでいってもわき役止まりの器だってまだ解んねぇか!」
「お前は実技試験をロクに勝ち上がったことがねぇ」
「――――――調子に乗んなっつってんだろうがクズが!! 平民殺して平気なツラしてやがるビージ・バディルオン!! ジャガイモみてーなひしゃげた顔のビージ・バディル――」
「うるせえよ」
煽りも罵倒も、もはやビージの心を支配しない。
〝お前が言ったんだろうが。『驕り自惚れてた自分は変わった』とか、クサいことを長々と〟
友人でも何でもないいけ好かない男の言葉を――
「もう少し信じてみることにしたんだ。手前のこととか、色々をよ」
「そうやってワケ分かんねぇ感傷に浸ってっから――――お前はまたこうして俺に捕まってマヌケ面さらすんだよカァァァ~~~~~スッッ!!!」
マトヴェイの魔術がビージの足元を捉える。
「バディルオンッ!」
「先生。――多少足がちぎれても構わねぇ」
『!?』
「俺が捕まったら――頼んます!」
「てっ――テメェ、何言って――」
「……ゼルテ!」
「わかった!」
風が走る。
イミアほどの正確性を持たない風の刃がビージの足枷を――――彼の足を深く傷付けながら、破壊する。
ビージが、殺気を以てマトヴェイを見た。
「こっ、いつッ」
「だらァァァァアアアアアッッ!!!!」
踏みしめた地を割った瞬転と共に、力をために貯め込まれ唸るビージの右拳が――――マトヴェイの物理障壁を破壊する。
「ッッッ、ビィィィイ~~~~~~ジィィィィイ!!! 足ぶった切れr」
「どこでもここでもイキってんじゃねェ勘違い野郎がァァァァッッ!!!!」
更なる瞬転パンチが。
無防備なマトヴェイの頬に直撃、瓦礫を爽快に巻き込みながら――マトヴェイを広間の端まで吹っ飛ばす。
「づでェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!?!!? あパバ……あぇ゛っ、え゛っぇえッ!?! かお、かお……おれのがおっ――――いふィっ!?」
拳の大砲を撃ち込まれ顔の半分が戻らなくなって四つんばいになったマトヴェイの前に、一つの影が立つ。
マリスタ・アルテアス。
「メ…………めズ、ぃピ」
「言ったよね、私。『宇宙の果てまで吹っ飛ばす』って」




