「悪夢は長くは続かない」
「この程度で済ますか――!!」
よろめくマトヴェイのローブをつかみ止め、更なる追撃を与えようとするサイファス。
そこに突然、
「女のこと忘れたかよ今すぐクシ刺しにするぞッ!!」
「ッッッ!!!」
こんな言葉がふりかかり、サイファスは一瞬動きを止めた。
そしてその隙を――マトヴェイは見逃さない。
「しゃァッッ!!!」
「ッ!」
「サイファスッ!」
眼前に手をかざしたマトヴェイに即座に魔法障壁を展開するサイファス。
背後から助けに来るゼルティウィドの声。
しかしマトヴェイの周囲から自分に、
「――――ゼルテ後ろだっ、」
一切の攻撃が及ばないことから彼の勝ち筋を悟ったサイファスが、
「赤い髑髏は倒してもすぐ再生するぞッ!!!!」
「!?」
振り返ったときには既に――――赤銅の髑髏はマトヴェイに意図的に魔力を供給され回復し、
(こいつ……手掌で操ることもできるのかッ、)
マトヴェイへ向け口を開いたゼルティウィドに向けた大鎌で――緑竜の胴を斬り裂いた。
「ッッ!!??!?う――――ァァアァァアァァッッ!?!?!?」
「ゼルティウィドッッ!!!」
「なんだ、これっ…………おれが、こわれる……ッッ!!!」
「うふふ――――あーーーハハハハハ!!!!!」
マトヴェイの狂気が崩れゆくホールにこだまする。
巨体で地に伏せ痙攣する竜にサイファスが走り、更なる凶刃をふりかざす髑髏から助けようと召喚を解こうとし――
「がァッッ!!!!」
――苦悶を振り切り、ゼルティウィドが再度赤髑髏を吹き飛ばしたのと。
「――――――――――は?」
どこからか伸びた一筋の砂がマトヴェイの巻物が貫いたのは、同時だった。
『!!?』
「――――知らなかったか」
とうに死んだはずの者の声が響く。
見開かれたマトヴェイの、マリスタの視界の中で――――血によごれた砂状の大理石の塊が、ひび割れて崩れていく。
「俺は――体が丈夫なことだけが取り柄なんだよ!!!」
ビージ・バディルオンは砂の棺をぶち壊し、軟骨という軟骨が潰れた血塗れの顔でマトヴェイを睨みつけた。
「こっ、この、この――――クソ体力バカデク人形がァァァァァッッッ!!!!!!!」
「ビージ君ッ……!!!!」
叫ぶマトヴェイの足元で、貫かれた巻物が焼失するように消え失せていく。
無論、ゼルティウィドにより頭の欠損した痛みの呪いも、チリになって消滅していく。
マトヴェイ・フェイルゼインは孤立無援になった。
「やっとこの時だな――――テメーにだけは俺の手で始末つけるぜマトヴェェェェェェイッッ!!!」
「ひっ、ち――調子にノッてんな木偶ぅぅぅぅッッ!!!」




