「風の竜」
〝極めてみたくてな。だから大学府を出てから、本腰入れて勉強してたんだ――おかげでよく身に付いて、色んなのが召喚できるようになった〟
〝ど、ドラゴンとか!?!――――とうとう出来るようになったんだ!〟
〝苦労したけどね。小さい頃みせたのとは比べ物になんないの見せてやるから、楽しみにしとけよ〟
◆ ◆
それは身の丈十数メートルもある、緑色の体色をした竜だった。
鋼のような光沢をもつ鱗が体中を覆い、さながら全身棘だらけのように攻撃的な見た目。
中でも目を引くのは頭の中心に扇状に三本生えた直線的な角。
三本の角は光を反射し、鉱石のように緑色に輝いて見える。
尻尾は長く、また角と似た鉱石的な尖端を持ち、角と共鳴するように鈍く明滅を繰り返している。
獰猛な黄土色の鉤爪を持つ緑竜は、その黄金の目でマトヴェイを見据える。
縦細く切り開かれた黒き瞳に、マトヴェイは本物の戦慄を覚えた。
「……おいおいマジか。『式召喚』に『命召喚』も扱えるのか、お前……!」
「はぁ、はぁ――ハッ。その口ぶりだと、お前は式召喚しか扱えないらしいな」
「……ヘロヘロのくせにイキがってんじゃねーよ。その程度の図体の竜一匹召喚するのにどんだけ体力使ってんだ馬鹿が。それだけでもお前の実力の低さは透けて見えんだよ」
「道具まで使ってそんなザコ粘土程度しか召喚できないでフくなよガキ。実力不足を棚に上げて道具使って終始イキってるのはお前だろうが」
「聞こえなかったみてぇだな、金も力だと。お前のような考えの浅いクソには理解できんだろうな――誰がザコ粘土しか召喚できないって?」
マトヴェイが指を鳴らす。
途端――幾体もの泥人形がもぞもぞと合体を始め膨れ上がり――――竜種を超える大きさの巨体へと変貌を遂げた。
「――もう一度言ってみろよ。誰がザコ粘土しか召喚できないって?」
「何度も言わせるなよ厚かましい」
「……殺せ。さっきの木偶みてーに肉塊にしちまえ」
野太い汽笛のような声を上げて巨体が動き、
「――加減はいらない。頼むぞ。ゼルティウィド」
「わかった。あいつ、タオす!」
「ッ!!? 喋ッ――」
風が。
泥巨人を一撃で、バラバラに吹き飛ばす。
「きゃあっ!?」
突風を受けたマリスタが叫ぶ。
障壁内に吹き荒れた強風は的確に倒すべき泥人形だけを残らず断ち切り、辛うじて精霊の壁を間に合わせたマトヴェイだけを残して敵を全滅させる。
鱗を緑に光り輝かせ。
風の咆哮が、すべての土を吹き飛ばした。
「クソッ……まさかこの竜種ッ」
「竜にも所有属性はある。お察しの通り風属性の所有属性だよ!」
「チィッ、またかよッ」
「お前の魔術に風は天敵だったな。教えてやらないと分からないか?――――詰みだぞもう、貴様は」
「クソッ――がよッ!」




