「男女男」
勇気でも怒りでもない――ただただ大きな恐怖が、マリスタの思考を埋め尽くしていく。
体を無遠慮にまさぐる手、下卑た笑い声、支配欲と征服感に染まり切った顔――――そのどれもが、マリスタに根源的な恐怖を鳴り響かせる。
「ははははははッッ!!! やっとだ……やっとマリスタが俺のモノになるッッ!!」
獲物を前にした獣のような表情で、マトヴェイがマリスタの下着を引きちぎり――露わになった胸を直接手で弄ぶ。
空いた手で恐怖に引きつったマリスタの頭をつかみ顔を上げさせ、無理矢理に唇を――
〝マリスタ〟
「うっ!?」
――――一瞬だった。
舌をたらし、大きく口を開けて迫ったマトヴェイの顔が迫るのを見たとき――マリスタの脳裏を誰かが横切り、一瞬で感情が裏返った。
裏返って現れた、怒りに任せ――――あらん限りの力を込めて、マトヴェイの顔へつばを吐き飛ばしたのである。
それを、認識した直後。
「げァ――――――ッ、あ、、ぎゃ!ぐ、げ、!? ごェッッ!!?」
英雄の鎧で身体強化下にあるマトヴェイの拳が、マリスタの腹部を滅多打ちにし始めた。
「……前に、俺に屈服するまで顔を殴りつけたメスで遊んだことがあった。自分でやったこととはいえ、萎えて萎えて仕方なくてな。それからはこうして、見えにくい所を痛めつけるようにしてるんだ」
「ぎゃ、ごば、ァッ、だ、ぁあッ……!!」
鳩尾を何度も何度も何度も何度も何度も、何度も殴り付けられる。
腹筋に力を込める間さえない暴力の連打にマリスタは空気を吐き尽くし、今胃液さえも吐き尽くそうとしている。
酸い臭いがマリスタの鼻を刺激した。
感情はまた、反転する。
「臭せェぞメス。汚物吐いてんじゃねーよ」
マトヴェイは鼻にしわを寄せ、拳を解いてマリスタの髪をつかみ、乱暴に揺さぶる。
「謝れ」
「…………づぇ、あ゛ッ!!」
「足りなかった? ん?」
「げェッ!! ああ゛あ゛ッ! ぢァア゛ァ゛ッッ!!!」
「聞こえてるか? 夫に謝れっつってんだ。あ? そろそろ内臓潰すぞ。最初はどこがいい? 子宮か? とりあえず数年は必要ねぇからな?潰しといた方が色々とラクだよな?避妊も堕胎もほぼ必要なくなるもんな???いやそういう意味じゃ卵巣潰しとくのが手っ取り早いか?でもあそこ治らねぇかもしれねぇもんなぁ?俺それで何人かダメにしちまってさぁ!?」
「ッッ――「早く謝れッつッてんだよッッ!!「ごめんなさいッッ!!!ごめんなさいっっ!!!」
「はっ――――はははははははははは!!!!!!!」
揺さぶられ揺さぶられ揺さぶられ、握られていた毛髪が鈍い音をたてて引き千切られる。
それを空へと放り捨て、マトヴェイは焦点の合わない目で高らかに哄笑した。
「たまんねェ、マジでやっぱたまんねェッッ!! 力でメスを屈服させる瞬間ってのは!!!」




