「無手の弾丸」
素早く手を翳す。
顔程の大きさがある、数発の琥珀色の弾丸が俺の背後に現れ――ヴィエルナ目掛けて真っ直ぐに飛んだ。
「! 魔弾の砲手も無詠――」
言い終わらないうちに、ヴィエルナは体を屈めて弾丸を避ける。
床に着弾した弾丸が爆ぜ、魔力の残滓を残して煙のように消える。
――逃がさない。
弾丸を絶やさず、ヴィエルナの姿を追う。だが――
「う、おっ……!」
避ける。躱す。飛ぶ。走る。
――物静かそうな女が、どうしてホットパンツなんて軽装をしていたのか、ようやく解ってきた気がする。
決して少なくない弾丸の礫の中を擦り抜けるようにして俺に迫ったヴィエルナが、姿勢を低くして拳を繰り出してくる。受け止めようと伸ばした手をが突如開かれた拳によって掴まれ、引っ張られる。
「ぐッ……あがッ!?」
迫るヴィエルナの顔を捉えた時には、もう片方の拳によって腹部への一撃をもらっていた。
引っ張られた体と突き出された拳――とても一発の拳とは思えない衝撃を受けた体は、魔法による身体強化を以てしても僅かに折れ曲がり――俺を引っ張っていた手の感触が消えたのを知覚した直後、その手による掌底が俺の顎を打ち抜いた。
身体機能を理解した合理的な格闘技。
もう疑いようもない。こいつは――――武闘家なのだ。
「ッ!!」
「――――」
揺らぐ視界の中で放った拳をあっさりと避けられ、その腕を掴まれる。
再度視界が反転、一本背負いの要領で投げられて宙を飛び、背中に壁の衝撃――――次いで放たれたヴィエルナの蹴りが、吸い込まれるように俺の鳩尾を捉えた。
空気の塊が口から飛び出す――――のを感じた瞬間には腹部を圧す足は引っ込み、代わりに横腹をもう一方の足で蹴り飛ばされ――――コンクリートの床に叩き付けられた。
「がハッ――くそっ」
追撃の予感だけを頼りに、後ろへと跳ぶ。
幸い壁際ではなく、俺は忘れていた呼吸と索敵を再開、ヴィエルナの姿を認識する。追撃はしてこなかったようで、ヴィエルナは壁際で何やらポケットから黒い手袋を取り出し、身に着けているところだった。
見たところ、メリケンサックというわけではないようだが……ここは異世界だ、何が飛び出すか分かったものではない。近付くのは止した方が賢明だろう。
接近戦に分がないことは身に染みて理解した。
なら――魔法はどうだ?




