「怒りの戦い」
「……後でいくらでも責めてくれていい、黙っていてすまない。実は今――」
「いいよ。言わなくて」
「――?」
「打開策。何か立ててたってことでしょ? だから風属性魔法が間に合わなかった」
「――そうだ」
「何でもする」
「何?」
「私、何でも手伝うよ。あいつを――」
マリスタが。
殺気の宿った目で、マトヴェイを見る。
「――――あいつをバキバキにできるんなら、なんだってやってやるッッ!!!」
「…………こいつを使うにはバカみたいな時間がかかる。その上、俺はたぶん魔力を使い切って動けなくなる。だが――」
マリスタと同じく、サイファスがマトヴェイを見る。
「――あいつをぶちのめせる。確実にな」
「乗った。それで――私達は、あとどのくらい時間を稼げばいい?」
「……五分。あと五分だ!」
「――ドでかいの期待してるからねッ、サイファス!」
「……んん?」
歩み出てきたマリスタを見て、マトヴェイが薄ら笑う。
「どうした? やっと俺のものになる気になったか?」
(…………よし)
見る。
敵の男をまじまじと、見る。
ロハザーと向きあった時とも違う。
ケイと向き合ったときとも違う。
(大丈夫。私は今――――間違いなく「怒り」から、こいつを倒したいと思ってる!!)
「脱げ、マリスタ。全裸で俺に服従を誓え。そうすれば王の妃にしてやる」
「……劣等はあんたじゃないの?」
「…………は?」
「ちょっと考えてみればさ。あんただってクソプレジアにいたワケでしょ」
「解ってねぇな、これだからバカは。俺がプレジアにいたのはアルテアス家を超えるため――」
「そして超えられなかった。私の家を」
「吹くのも大概にしろメス。テメェの現状見りゃ――」
「しかもそのクソプレジアを退学させられたのは誰よ? しかも……インコウ、とかいうワケわかんない理由だったよね、たしか。ナタリーから聞いたわ」
「……オイ、」
「よく分かんなかったけどさ、犯罪だって聞いたよ私。そしてあんたのこと――――ナタリーは『エロガッパ』だって」
「メス、」
「名前なんて覚えてたくないからさ。言いやすいから私もそっち使うね。――一戦よろしく、エロガッパ!」
「メスゥゥゥゥッッ!」
赤き大鎌を避ける。
髑髏の肩口を飛び越え――その先から繰り出された泥人形たちの数多の拳に棒状の所有属性武器を突っ込み、
(霊体化――)
流動化させ拳の隙間を濡らし、
(――からの実体化ッ!)
その状態で水を固定化。
見事泥人形の手にひっかかった所有属性武器を支点に体を棒で持ち上げ、更にその棒を起点に人形の腕を飛び越えるようにして跳躍、マトヴェイ眼前の中空に迫る。
「!」
「まずはあいさつ代わりの――」
片手に霊体化させた所有属性武器を再製し、両手に構え、
「馬鹿が――っ!?」
大理石の蛇を魔法障壁でいなし、
「一発じゃあああああッッ!!!」
――所有属性武器が意図せず弾け飛ぶほどの一撃を、マトヴェイに叩き込んだ。




