「断罪は既に」
全員の足元で大理石がさく裂する。
『ッ!?』
「救えないマヌケが――ほいほいとまた同じ手にまたかかりやがる! そら、もうそよ風で解くことも出来ないぞ?」
「くっ――――ッ!!?」
足に絡み付く砂状の大理石を力任せに破ろうとしていたマリスタが止まる。
足だけでなく――全身へとはいのぼる砂に覆われていくビージを見て、止まる。
「ぬっ……ぐ!」
「――ちょっと、」
速い。
速い。
砂が、速い。
そんな思考を、重ねるたび――――どんな手段も、少年を助けるにはもはや遅くなっていく。
少年が、急速に死に近付いていく。
「待ってよッッッッ!!!!!!」
「ッ――――!! バディルオン――クソッ!!」
「ハハハハハ――あっけない最期だなビージ。最後くらい泣いてみろよ、ん? あのときのテインツみたいに!」
「ッッ――――!!!」
――追いつかない思考が。
迫りくる死が。
ビージの目を曇らせ、本能で体を震わせ、走馬灯が今考えるべきことを押し流して駆け巡り――――
〝なんでそう自分に自信がないんだ、お前ら〟
――貴族でも友人でもない男の、励ましでも嘲笑でも何でもないただの言葉を、思い出した。
「――ージ君ッ!! ビージ君ッッ!!!」
「――ぅるッせーぞピーピー喚いてんじゃねぇマリスタッ!!!」
「っ!?」
「うぶ――ごほぽ、」
ビージの顔が砂に埋もれ――直後。
大きく盛り上がり弾けた砂の下から、ビージの両腕と顔が突き出てくる。
「うわっ!?」
「!? チッ――筋肉木偶がっ、頑丈さだけは大したもん――」
「いいかよく聞けマリスタッ! 『呪い』にはデカい魔法が効くッッ!」
『!』
「思い出したんだ――――ギリートがデカい火炎であいつの体を撃ち抜いたとき、あの赤髑髏の動きは止まってた! あいつァたぶん――体を欠損させてる間は動けねぇ!」
「そ――そんなの、分かったって、」
「しっかりしやがれべうェ――――べっっ!!!」
「うわ砂ッ?!? ちょ、こっち向けて吐かないで――」
「諦めてんじゃねェッ!」
「――――、」
「あいつの言葉に惑わされんな! 全部上っ面でしかしゃべってねぇ、あいつは昔からそういうゲスだ! てめぇならできる――――頼むマリスタ。俺の代わりに「だからお前はそういう器じゃねぇって言ってんだろうが、カァァ~ス」
マリスタの、顔に。
殺された肉から飛び散った鮮血が、飛んだ。
「――――――――――、 、」
耳に残る、言い表せない音。
それは砂のようでそうでなく、音がしていないようでそうではない。
(だって人間が)
肉がああして潰されて、
(音が、)
しないわけが、ない――――――――――
「――――ぁ――」
マリスタの絶叫が、空間を満たす。
その音に聞き惚れるように目を閉じたマトヴェイが手を動かし、次なる犠牲者であるサイファスの身体に砂を巻きつけはじめ――――放たれた風属性魔法により二人の砂は解除、サイファスはマリスタを引っ張って更に後退した。
「……本当にすまん。助けられなかった……!」
「…………サイファス。どうしてあなたほどの力で、風の魔法を出すのにこんなに時間がかかったの?」




