「情」
「カスはテメェなんだよマトヴェイ。前々からお前には黒い噂が絶えなかった……俺らのように、ただ『平民』を虐げるだけじゃねぇ。『平民』を――人を破滅するまで玩具にして遊ぶことを、陰でやってやがるって噂が。お前を取り巻く女子の様子がおかしいのも度々耳にしてた」
「だが言えなかった。探れなかった。そうだろ? だって俺はお前らより格上だったから。自分がビビってただけのことをよくもまあそう人を悪者にして語れるな、尊敬するぜ」
「あの時の俺らには、より大きな権力の庇護にあずかることが人生だった。フェイルゼイン家――アルテアスに次ぐと言われた豪商の嫡男に、俺達が口を出すなんて考えたこともなかった」
「間違えんな。アルテアスに『次ぐ』じゃねえ、『比肩する』だ」
〝見栄張んのはよ、やめとけってビージ。お前らはそういう器じゃねえって、もう解ってるはずだろ?〟
「……嫌な奴だよ、どいつもこいつも。だがよ……腐れ切っても縁は縁だ。俺はそう思っちまうんだよ」
「……何語ってんだお前。だから」
「できるなら戦いたくねえっつってんだよお前とっ!! こんな俺でもやり直す機会をもらえてんだ、お前にだってその可能性があるはずだ! また四人でつるんでダチやれるって、どっか隅っこでずっとそう思ってんだ俺はッ!」
「……ハァ? 何もかも間違えてんぞ。まず俺とお前らは友達じゃねえ」
「うるせーんだよ俺はそう思ってたんだよッ!!」
「お前だけだよ。w つかツバ飛ばすなカス。床が穢れるだろうが」
「――――お前自分がどんな魔術使ってるか解ってんのかよッ!!!」
「び……ビージ君、」
「『痛みの呪い』だぞ!? ソレやられた奴はほぼ間違いなく廃人になってマトモな人間じゃなくなっちまうんだぞ!? 自分の意志でトイレも食事も死ぬことも出来なくなって――その姿を目にするダチとか家族を死ぬまで苦しめ悲しませ続けるクソみてぇな害しかねぇ魔術なんだぞッ!! お前――――お前そんなもん人に向けて使っちまったらお前っ、もう表で笑って暮らすこと出来なくなっちまうぞッ!! お前それ解って使ってんのかよッッッ!!!なぁマトヴェイッッ!!!」
のどをからし、涙さえ流しながら訴えかけるビージを、マリスタは呆然と見つめ。
「カスがどんだけ精神障害になろうが知るかよ。全員死んどけw」
何の感情も無いマトヴェイの返しを、唖然となって聞いた。
「マトヴェイ……マトヴェイィィィッッッ!!!」
「じゃあお前どうなんだ?」
「――ぁ?」
「お前だよビージ・クソ・カス・バディルオン。お前自分がこれまでどんだけの人間を苦しめてきたか。覚えてるか?」
「――――」
「あのね……比較になるワケないでしょマトヴェイ・大バカ・フェイルゼインッッ!! あんたその呪いの被害知らないんでしょ、現にその呪いは今でも色んな人を苦しめて、プレジアにも満足に暮らせない人が――」
「カミロ・クレイテル」
「――え?」




