「れっとーず」
水のように波打って迫る大理石の攻撃。
その波に体を躍らせながら迫る泥人形。
同時に迫る必殺の大鎌。
そのすべてをさばき切れるはずもなく――――泥人形のムチのような一撃に吹き飛ばされたビージとマリスタが地を転がる。
辛うじて防いだサイファスが両足で床を滑るように後退してきた。
「クソッ……風属性がないだけでこんなにキツいのかよっ」
「っ……なんだってのホントっ、あの男これだけの魔法を使っててどうして魔力切れしないのっ!?」
「……単純だろ。使ってないからさ、自前の魔力を」
「え……!?」
「『痛みの呪い』は巻物、召喚獣も魔法符。あれらは術者の魔力で運用する魔装具じゃなく、道具そのものに魔力が込められた魔道具だ。術者の魔力は使ってないんだよ」
「じゃあ、あいつが魔力を使ってるのは」
「そうだ、大理石を変質させてる土竜の行軍――いや、魔術だけだ」
「え。魔術? あれが?」
「……だろうな。あんだけ大規模な土竜の行軍を使ってケロッとしてやがる。それだけ魔力運用が効率化されてるんだ、魔術でしかあり得ねぇ。同じ所有属性の魔術師として断言できるぜ」
「……なによ。じゃあ全然自分で戦ってないんじゃん!」
「…………は?」
マトヴェイが反応する。
「その既製品の道具にすら勝てねぇで無様にやられてんのがお前ら雑魚の現状。どうせ分析するならその辺までちゃんとやれよな。ほんっとに頭悪いなお前ら」
「ハッ、そんなこと言って――――あんた、実は自分はすっごく弱いんじゃないの!?」
「弱い犬ほどよく吠えやがるなッ!」
マトヴェイが声を大きくする。
「今ズタボロになって倒れてんのはどこのどいつなんだよ、アァ? 先公の力まで借りてこの体たらく、お前ら二人だけなら今頃欠片も残ってねぇんだよ。大体お前らは今がその結果じゃねぇか。片や大した力もないのにイキって媚びって自滅した救いようのない劣等、片や大した力があるくせにサボって日和って口だけ達者な救いようのない劣等! 劣等劣等負け続け底辺の集まりクソプレジアッ!! どいつもこいつもみじめな負け犬敗北者共のハキダメだろうがお前らは!!」
「ハキダメはどっっちよ仲間の顔見てモノ言いなさいよ馬鹿男ッ!!」
「だったら見れるように顔並べやがれ雁首揃えてバンターにブチ殺されたザコ共風情がッ!! ここに辿り着いてる人数見てみろよ、最初から数えてどんだけ数減らしてんだッ! 全滅しかけてんのはテメェらの方なんだよ現実見えてるか負け犬ッ!!」
「あんた達親子だって追い詰められてんでしょうがッ! あとはアンタさえブッ飛ばせば次はボスなのよ、分かってるーぅ!?」
「状況見てモノ言いやがれザコッ!! お前ら詰めてんのはこの俺、俺俺俺なんだよッ!! 調子に乗りやがってクソメス性処理穴がイキがりやがって、お前だけは絶対に俺だけしか見えない奴隷にしてやるよ! マリスタ・アルテアスッ!!」
「!!」
赤銅の髑髏が前に出る。
マリスタとサイファスは身構え――――一歩歩み出たビージをぽかんと見送った。
「――どこまでいっても変わらねぇな。マトヴェイよ」
「対等ヅラすんなカス。テメェと俺は同格じゃない、まだ言われ足りないか?」




