「踊らされる者達」
「!? バディ――ビージ君っ、あれ触ってもダメなんだっけ!?」
「!?……っそうか、あんた映像でしか――――あれは『痛みの呪い』てんです! 時間ねぇからハショりますっ、とにかくアレに斬られんのはダメですッ!! 最悪廃人になる!」
「!! ……精神攻撃系か……!」
「ケイはあれにやられたのよっ、サイファス! あんたも見てきたでしょ!?」
「バディルオン君っ、触れてもダメというのは!?」
「あいつの身体とかッ、赤い霧には一切触れない方がいい! 触れた時のボルテール兵士長はどこか様子が変だっ――――」
圧。
ぎょっとして振り向いたマリスタ達の前で、大きく鎌を振りかぶる髑髏。
「うおっっ――――!!!!?」
「斬られたら終わり」。
その事実が、三人からじょじょに平静を刈り取っていく。
「っ――倒せるのかっ!?」
「え!?」
「過去コイツを見たんだろお前達ッ! そのときはどうやってこいつを消した!」
「そ、そのときは――」
「――術者です! 恐らく、マトヴェイの奴が持ってる巻物を破壊すればッ!」
「っ、そっか、巻物をっ」
「そうと分かれば――!」
サイファスが両手を広げ――腕の下から床にかけて現れた大きな魔法陣から、虎のような白い体毛の召喚獣が次々と出現、床から壁から天井からマトヴェイへと駆ける。
「おぉっと、まだ出るのか? 危ない危ない――ならこちらも、もう少し出してやろうか!」
マトヴェイが懐に手を差し。
「!?」
「マトヴェイの野郎まだ持って、」
「知らなかっただろ貧民、」
空に魔法符を、ばらまく。
「戦いにおいては、財力も力になるのさ――――!!」
泥が床に散る。
蠕動する泥から生まれた黒き人型が白虎の行く手をことごとく遮り、多勢に無勢なままに戦闘を開始する。
縦横無尽に泥と獣が行きかう大広間。
誰もが広々と感じていた空間が一転、過密乱戦の様相を呈し始める。
「こなくそがァッ!」
「くそ……少し近付くくらいッ!」
ビージが接敵。
攻撃は早くとも繰り出すまでが遅い泥人形に肉薄し、剛腕の一撃で文字通りの土手っ腹に穴を空け、吹き飛ばす。
「っし、この調子で――――っ!?」
が、それも一時。
泥人形はしばらく蠕動したかと思うと腹部の穴を再生し、また光るだけの目をビージに向けて進行を始める。
「くそ……不死身かこいつら!?」
「お買い得だろ? さっきまでなら風属性の魔法でどうにもならなかったが――メス魔術師は再起不能。無風のお前ら如き敵じゃないんだよ!」
「くっ――!!」
一撃ごとに一体を吹き飛ばしていたビージが、空から一挙に飛来した十数体にたまらず後退する。
その背後で、大理石の突起がビージの背を突く。
「ぐおおっ!!」
「バディルオン君ッ!」
貫かれないながらも吹き飛び、地を転がるビージ。
覆いかぶさろうと迫った数体の泥人形をマリスタの所有属性武器と一頭の白虎が吹き飛ばす。
「バディルオン君っ、大丈夫!?」
「クソッ、キリねぇぞこれじゃ! 召喚獣だけならまだしも、奴自身の魔術まで――」
「だが木偶、お前には金を使ってやるのも惜しい。俺が直々に相手してやる、よッ!」
「チィッッ!!」




