「忌まわしき大鎌」
「・・・ぁ……・…あッッ」
滝のような汗を流し。
開き切った目を更に切り開き。
まともな呼吸もままならない程狼狽し――――それでも視線を赤銅の髑髏から逸らすこともできずただ、ただ子どものように、
〝馬鹿が、まだ女として使いモンにもならねえガキじゃねえか! 母親は上玉だったがな!〟
〝そうですかァ? 俺はこっちの方がイケたもんですがね、ホラこの育ち切らない体。へへっへえ〟
〝ほどほどにしとけよ? でもダメだよなァ?――――魔女の可能性がある奴は、ガキもババアも『踏み絵』させとかなきゃダメだよなァ????????〟
〝どうしてっ、どうしてええぇぇぇぇっっっ!!! おかあさん、おかあさん!!! おとうさんおとうさんおとうさぁぁぁぁんんんッッ!! たすけてええええっっっ〟
〝よーちよちよち。いいこにしてるんでしゅよー、今――――〟
子どものように、震えている姿。
「――魔術師長ッ!」
「魔術師長!」
「えっ――」
一人離れた場所にいたマリスタが、膝から崩れ落ちるイミア・ルエリケを認めて――ようやく事態を把握し始める。
「はぁっ、はぁっ、はぁっっっっっっ!!?!?!」
「バディルオンっ、目をそらさせろ! 間違いなくアレが原因だッ」
「了、解……ッ! ッ、魔術師長、ゆっくり息してくれよッ! 落ち着いて、オイッ!!」
その場に力無くへたり込み。
見開いたままの充血した目から滂沱の涙を流し。
まるでたった今海中から引き揚げられたかのような、呼吸で――――一度目をそらしたきり、イミアは赤銅を見ることすら叶わない有様だった。
マリスタが戻り、イミアの惨状を確認する。
「っ――魔術師長。もしかしてあなたは、」
濃密な魔波。
赤銅が動く気配。
マリスタの振り返った先で、赤き巨大な鎌が振りかぶられ。
〝今、パパママと同じとこにおくってやるからナァァ――――――ァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!!!!〟
〝いやあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!」
サイファスが、引き。
マリスタが抱き着くようにして、突き飛ばし――――イミアは辛くも大鎌の魔手から脱する。
「バディルオンっ、彼女を捕まえといて!」
「は、はいっ」
だだっ子のように泣き暴れ取り乱すイミアをビージが押さえ、サイファスが丸い――先の大魔法祭にて児童用の敵も務めた可愛げな召喚獣を召喚。
直後、人間の頭大の大きさの口の大きな桃色の召喚獣は――――その体からは想像も出来ない程瞬時に巨大化、大きな口でイミアを飲み込み弾力で後退していく。
「サイファス、あれはっ、」
「あの中にいれば大丈夫、防御専門の召喚獣だッ」
「はっはははははははは!!!!! チビってやがったぜあの高慢ちきのメスが!!! たまらねェよなマジで!!!」
マトヴェイの昂った嘲笑い声が、不快に三人の耳朶を揺らす。
「なんだか知らねーけど、もうダメみたいだなあのメス!! 口ばっかりのカスは無様なもんだぜ、メスがでしゃばるからそうなるんだよッ!! ははははははははッッ!」
「ゲスがッ――!」
「下手に近寄っちゃダメッ!!」
「アレに触ったら終わりっすよ先生ッッ!!!」
「っ!?」
大声の制止に、今にも飛び出そうとしていたサイファスが踏み止まる。
「な――――どういうことだッ」




