「『呪い』を、使った。」
「ッ、だったら――下はどうだッ!」
ビージが拳で床を打つ。
マトヴェイの魔法に反応する大理石の床は当然ビージのそれにも反応、変性し、大理石の床を盛り上がらせながらマトヴェイへ迫る。
が、同じことだった。
床の中にまで及んでいた青い光を放つ防護魔法符の効力により、ビージの土竜の行軍は途中で障壁に激突し消える。
巻物の赤光が、増していく。
「ッ……私が行くッ!」
「!? バカっ、マリスタ! 不用意に突っ込むな、どんな魔術が封じられているか――」
イミアの発生させた竜巻により砕かれた大理石のつぶてが舞い、サイファスとマトヴェイの召喚獣が床に壁にと縦横無尽に張られた戦線の中を、マリスタが所有属性武器を片手に瞬転を駆使し、マトヴェイの背後へと向かう。
当然気付いたマトヴェイが再び床を変質、マリスタの行く手に迷路のような壁を作り上げようと床を盛り上げようとし――マリスタに続いたビージがそれを遠距離から土竜の行軍で抑え、大理石の主導権が拮抗する。
大理石の流れ玉をかいくぐり、戦う泥人形のとばっちりをなんとか避け――それでもあの赤光を止めなければならないと、警鐘を鳴らす本能の赴くままに無我夢中でマトヴェイの背後へ――――たどり着き、
そして、遅かった。
「わたしをあげる」
マトヴェイが、何かを短く詠唱し。
呼応した赤光が――――赤銅の光が、空間を塗り潰し。
赤き髑髏は、再びその姿を現した。
『――――――っっっ、』
ビージとマリスタが固まる。
赤い霧と、赤い粒子状の魔波によって構成された、襤褸をまとう髑髏。
腹部の中ほどまでしか霊体の存在しない、五メートル超の赤き幽霊はゆっくりと骨だけの手を握り――その手の中に、赤き大鎌を錬成していく。
少年少女は急速に思い出す。
その姿を。
根源的恐怖を。
画面越しにさえ感じた、息が詰まりそうな魔波を。
今なお、ケイ・アマセを苦しめ続ける、その禁忌の魔術は――――
「…………『痛みの』ッ、」
「『呪い』っ、だと……!!?」
「おい、お前達ッ!! 気をしっかり持てッ!!」
『!!』
サイファスの声に慌てて我に返る二人。
ビージも首を振って気息を整え、状況を把握しようと視野を広くして――――
「――……魔術師、長?」
――イミア・ルエリケの「現状」を、やっと認識するに至った。




