「不遜なる貴公子は、」
突如、砕け地に落ちた大理石の欠片が――時雨となって四人へ飛来。
イミアは一切の動揺なく風の竜巻を展開、石時雨を障壁のように弾き飛ばす。
しかしその魔法を発動する一瞬の間に――マトヴェイは「発動」の準備を整えた。
「!? 魔術師長、あれっ!」
マリスタの声が向けられた先。
マトヴェイが懐から取り出したのは溝が刻まれた、大きな鍵穴を持つ銀色の錠の付いた薄汚れた巻物。
マトヴェイの込めた魔力が光となり溝を伝い、所有者の魔力に反応した錠が鍵穴を光らせて開錠、地に落ちて――――開かれた巻物がその周囲に赤光を漂わせ始める。
イミアの様子が豹変したのは、その時だった。
「――――アレを止めなさいッッッッ!!!!!!」
『ッ!!!?』
「早くッッ!!」
悲鳴のようにさえ聞こえた声に一瞬体をこわばらせるマリスタ、ビージ。
だがその声に、二人も即応することができなかった。
(――――俺はアレを、)
(――知っている?)
ビージ、マリスタの脳裏をかすめる赤い記憶。
確実に記憶を刺激するその赤光を、しかし二人はどうしても思い出すことができない。
あれは、あれは――――
「ボサッとするな二人ともッ!」
『!!』
二人を現実に引き戻す声と同時に、サイファスが白き体毛を持つ虎のような獣を二体召喚。
まっすぐにマトヴェイへ――
「邪魔するなよ。ヘボ召喚術師」
――マトヴェイがもう片方の手で更に魔法符をつかみ取り、前方へ放る。
魔法符はマトヴェイの顔ほどの高さに滞空し――召喚獣の爪がマトヴェイの前方上空から振り下ろされた瞬間、青い光を放って障壁を展開、召喚獣の爪を二撃とも完璧に阻んだ。
「チッ、あの魔法符――」
「さっきの終焉抱き新月を消し飛ばしたヤツか!?」
「あんな強いのまだ持ってたの……!?」
「だけどっ……あの防護魔法符は正面しか防御できてない!」
サイファスの言葉に反応したか、弾かれるようにマトヴェイを大きく迂回し背後へ回り込む召喚獣達。
マトヴェイはそれを見もせずに、
「よく訓練されたネコ共だな――」
指の間に複数の魔法符をはさみ取り背後へ投げると、
「――俺の泥人形とどっちが強いかな?」
――魔法符は自身を中心に回転する泥を発生させ、質量を増し――地に真っ黒な泥でできた人間大の大きさの人型召喚獣を出現させた。
「! あいつも召喚獣を」
「馬鹿なっ、あいつあんなのプレジアでも使ったこと――」
「マヌケが。学生時代と同じままなワケないだろが!」




