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「底なしの欲望、青天井の高揚」




◆    ◆




 俺のほおをヴィエルナの拳が打ち抜く。

 胸元に迫る拳、その第二撃を俺は――――片手で受け止めた。



「!?」



 ヴィエルナの驚きが伝わる。

 この程度で、と腹が立たたないではなかったが、それも当然か。

 きっとこの魔法は、昨日今日魔法を学び始めた者が易々《やすやす》と習得出来るものではないのだから。



 だが――わかってはいたがめられたものだ。



英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)も使わずに突っ込んでくるなんて――――俺程度、それで十分だと踏んだのか? ヴィエルナ・キース」

「!?」



 つかんだ拳を離さないまま、右手で後方に投げ飛ばす(・・・・・)

 吹き飛んだヴィエルナが空中で体勢を立て直し、前方の地面に着地しようとしている――――



 ――みえる。みえるぞ、全部。



 跳ぶ(・・)

 数メートル先の、着地しようとして床に視線を投げているヴィエルナに跳躍ちょうやく一つで肉薄にくはくし、左足から着地、全体重をかけて振りかぶった右拳を、ようやくこちらに視線を向けたヴィエルナの――――眼前で寸止すんどめた。



 ……入っていた。

 魔法の使えない悪漢あっかん程度なら、きっとこの一撃で終わっていた。



 体を高揚こうようが走る。

 追って風が吹き、俺とヴィエルナの髪をらす。俺は、――俺が、人知を超えた速度で物理法則を従わせたことを実感した。



「―――― っ ……!」



 ……げぇ。



 これが魔法。



 これが、……新しい、俺。



「……もう使えるの? 英雄の鎧(ヘロス・ラスタング)……しかも、無詠唱むえいしょうで?」



 ヴィエルナが眼前の拳から視線を外し、確かな驚きの眼差しを俺に送る。

 驚きこそすれ一切乱れてはいないそのたたずまいに、俺は深呼吸で興奮を無理矢理追い出し、その目を見返した。



 落ち着け。

 人相手に試したのは初めてだが、もう何度も練習した魔法だ。効果は十分把握しているはずだろ。



 そして、俺が向き合っているのは一般人の悪漢なんかじゃない。

 この学校で二番目に強いと認められている実力者の一人なんだ。

 ここからだ。まだここから――



 パシン、とあっさり拳が横に払われる。



解った(・・・)



 それを認識した時には――俺の体は、先程さきほどとは逆の方向へ宙を飛んでいた。



「ご、ほ……っ!?」



 視界には、右拳を突き出したヴィエルナが遠く映っている。

 既視感きしかん。これは――テインツに投げ飛ばされた時のものだ。



 吹き飛んだってことか。立った一発のパンチで。



「――ハッ……」



 ――いよいよバケモノじみてきやがった。



 背から衝撃が走り、体が波打ち頭を背後に打ち付けて、着地する。――ああ、これも既視感だ。壁にぶつかったのか。

 だが衝撃はあっても、痛みはほとんど感じない。体の動きがにぶる感覚も無い。

 それどころか俺はいまことげに、ゆっくりと立ち上がってヴィエルナを視界に収めている。


「…………どうやって、使えるようになったの。無詠唱なんて」

「やけに大袈裟おおげさに言うんだな。本に載ってた。だから勉強した。それだけだろ」

「……この、短期間に?」

「ああ。短期間じゃ、満足に学べなくてな――だから嬉しいよ、ヴィエルナ。こうして実戦してみないと学べないことは多い――――今それを、嫌というほど実感してるとこだ。さあ」



 手を広げる。



 もっとだ。もっともっと、もっと。



「続きを始めよう。ヴィエルナ・キース」

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