「王宮魔術師長――②」
「嗅覚だけは獣に劣らないようですわね」
緑の小さな光がイミアの掌の上に明滅し――根を持たぬ小さな枝葉を発生させる。
(「水」と「土」属性を練り合わせた応用属性――木属性魔法!?)
触手のよう素早く伸びた腕以上の太さを持つ枝が、ようやく鎮火した煙の中へ突っ込んでいく。障壁の打たれた音が聞こえ、煙を突き破ったマトヴェイが上空へ身を躍らせる。
「チッ、どうなってんだ木属性まで使えん――」
マトヴェイの視線の先には。
つい先ほどまで神火の群舞を放っていたイミアのもう片方の手の上で発射準備を終えた、闇の魔法。
(速――)
「終焉抱き新月」
空気を食い殺し突き破り。
マトヴェイの魔法障壁を覆い尽くすほど巨大な闇の波動が、中二階の床と石柵をえぐり取りながら空間を覆う障壁に跳ね返り余波を広げる。
「うわこっちまできたっ!?」
「触られるなよ。闇の不活性化は文字通り侵食する、かすりでもすれば調子悪くなるぞ」
「……ほんっと、闇ってチート属性よね……あれも使えるワケあの魔術師長は。闇って確か、所有属性でもない限りは火と水と雷属性をしっかり使えなきゃ練れない応用属性でしょ」
「……とんでもねーな。木属性も水・土を基とする応用属性だ。さっきバンバン風の刃を放ってたことを考えたら――」
「――風、水、土、火、雷。基本五属性は全部スラスラ扱えるってこと・・・・・?」
「し、しかも闇属性上級魔法を詠唱破棄だ・・・・んなこと出来んのか人間に」
「ホラ呆けるなよマリスタ、バディルオン。追い打ちかけるぞ、闇を受けた以上あいつの障壁はそろそろ――」
闇の波動が一瞬で魔素と消えた。
『!!?』
闇を打ち払ったのは青い光。
そして光の発生源である――魔法陣が描かれた長方形の紙切れ。
やがて効力を失ったのか、紙切れは力無く地に落ちた。
イミアが先と同じ冷たい目を向ける。
着地したマトヴェイは忌々しげに彼女を見た。
「……こんな序盤から守護魔法符を使わされるとはな。……高くつくぞ。魔術師」
「高くついた、ですわね。呪うならご自分の目が節穴だったことを呪いなさいな。獣畜生」
「んだと?」
「では答え合わせ。一体どれが私の所有属性だったのでしょうね?」
「……メステメェ………………っ!」
「は。ようやくお気付きですか。いえ、獣ならば早かったと褒めるべきでしょうか。解りましたでしょ? 『所有属性は何か』などという問いは、そも王宮魔術師長にとって愚問でしかないと」
「イミア・ルエリケ……そうだ、イミア・ルエリケ……! なんてこった、あんた城の魔術師長かよ! クソ、なんであんたみたいなのがこんなとこにっ、あんたは城にいるもんだと――」
「蛮族のにおいがしましたもので。導かれたのでしょうね、きっと。汚物を消毒せしめよと」
「……………………」
マトヴェイは一瞬、顔を歪め。
直後表情を直し、笑った。
「成程、なるほどね。あんたのような扱い辛いのがいた上で四対一なら……こちらも出し惜しみをしてる暇はなさそうだ」
「!」




