「王宮魔術師長――①」
巨大な大理石の蛇が、大きな音ををたててその首を落とした。
「…………これもかよ」
「馬鹿の一つ覚え。一つしかできないのは何も出来ないより悪いと言いますわよ」
涼しそうな顔でそう言うのは、息巻いたマリスタがマトヴェイにとびかかろうとした横から巨大な風の刃を放った王宮魔術師長イミア・ルエリケ。
魔女を思わせるとんがり帽子の下から冷酷にも見える目をのぞかせ、彼女は続ける。
「まあ、お前の戯言も大概で聞き飽きたところでしたし。さっさと終わりにさせてもらいますわね、獣畜生」
「ちょ……魔術師長、あいつは私が――」
「大口叩いていましたけど、少し状況が見えていないのではなくて? 今は国を失うかどうかの瀬戸際でしてよ、お嬢さん」
「う……そうでした」
「では四人で仕留めましょう、先陣は失礼しますわよ。どうやらあの獣畜生は近接型でなく、遠距離型の魔術師のようですし。砲台としての性能なら私がこの中で一番でしょう」
「ハァ……相性ってのはここまで露骨なものか。せっかくの土魔法があっさりやられちまう――まあ他ならぬ俺の所有属性だ。割れてて当然か」
「――自意識過剰もそこまでいくと滑稽ですわね」
「……イチイチ癇に障る言い回しだなメス。性格悪いって言われるだろ、お前」
「私の所有属性。風じゃありませんわよ」
「――あ?」
「え?」
マトヴェイとマリスタが反応する。
何でもない風にイミアが続ける。
「土には風、だから使ったまでのこと。お前のような獣畜生のことなんて、私が知るワケがないでしょうに」
「所有属性じゃない属性は所有属性に比べて数倍の訓練が必要になる。無詠唱でこの威力だ、あの風の刃見りゃそれが所有属性なことくらい一発で判るんだよ。意味分かんねぇとこで強がってんなよメス、俺に屈辱を与えたいのは分かったからさw」
「ああそうでした、」
魔波に揺れる帽子の下で。
魔術師が、不敵に笑う。
「獣に言葉は通じないんでしたわ」
イミアの指先からマトヴェイに飛ぶ、小さな小さな火の玉。
結構な速度で迫った火の粉のごとき攻撃をマトヴェイは嘲笑い、
「そんなもんで――――っっっ、」
直後、込められた魔波に気付き詠唱に移る。
「堅き守人!!」
詠唱破棄により、先の無詠唱とは比べ物にならない速さでマトヴェイの眼前に錬成された石壁に火の粉がぶつかり、
「よくできました」
石壁全てを食らい尽くす爆炎となってマトヴェイを包み波動のように伸び、彼の背後の石階段まで延焼する。
爆風で焼け千切れた赤い絨毯がイミアの眼前を舞った。
「ありゃ神火の群舞、だよな? 無詠唱であの威力かよ……!?」
「ね、ねえサイファス。無詠唱って魔法の威力下がっちゃうの?」
「呪文を省略する分、多少は粗が出るからな。でもあの神火の群舞はまるで横向きの火柱みたいで――あんなに充実してる中級魔法は初めて見た」
「……すご……って!?」
視線を戻したマリスタが見たもの。
それは燃え盛る炎がいまだ消えぬ中、次の魔法をその手に錬成するイミアの姿。




