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「蛮勇、いさみ先制」



魔弾の砲手(バレット)を放った術者――サイファスは怒りを隠そうともせずマトヴェイをにらむ。

マトヴェイは煩わしくてたまらないといった風に音もなく大きく息を吸い、小さくゆっくりと一度首を振ってその目に応じた。



「――邪魔だぞオス。死んでろ」

「死ぬのはお前だ。悪いけど……許嫁いいなずけをここまではずかしめられて黙ってられるほど、俺は人間出来てない。お前が元プレジアの学生だろうとな」

「!……おいおいおい、勘弁かんべんしてくれよアルテアス。お前もしかして非処女(使用済み)なの?」

「黙れッ!!」

「うーわ冷める、マジかよやめろよな気持ち悪い。これが他のメスなら、具合(・・)さえよければ飽きるまでは使ってやるんだけどさ」



 再度放たれた魔弾の砲手(バレット)中空ちゅうくうでマトヴェイの放った魔弾の砲手(バレット)相殺そうさいされる。

 鋭い殺意を乗せた目がマトヴェイとサイファスを行き来する。



「……見たことも無い顔だ。たたずまいに格も気品もろくに感じられない。とてもじゃないが名のある貴族とは思えないな」

「名があっても中身がお前じゃ救いようが――」

「しかも許嫁だって? とんでもない雑種ざっしゅに言い寄られたもんだなアルテアス――――ああ。まあ君は、そうか。あんなにも育ちの悪そ(・・・・・・・・・・)うな異端(・・・・)にさえなびいてたんだもんな。異端(アレ)といい許嫁(コレ)といい、顔さえよければなんでもいいってところか? 節操の無い女だ。下品な」

「あんたに言われたくないッッ!!!」



 魔波まは



 辛抱できなくなったマリスタがマトヴェイへ流弾の砲手(アクアバレット)を連発し――マトヴェイが自身の眼前に床から大理石の壁を作り出し、応じる。



「ふうぅぅぅぅッッッ!!!!」



 言葉にならない怒気をかんだ口かららしながらの連弾にサイファスが魔弾の砲手(バレット)で加勢。

 百にも及ぼうかという魔弾の砲手(バレット)の雨はやがて壁をいくつも粉砕し、マトヴェイを攻勢へ転じさせる。



「ふん」



 精霊の壁(フェクテス・クード)を展開したマトヴェイが茶色のズボンのポケットに両手を収めたまま、床に魔法の発動反応である閃電せんでんを走らせる。

 直後――――軟体なんたいとなった大理石が絨毯じゅうたんを突き破りマリスタら四人の足に粘着ねんちゃく、彼らの動きを封じた。



『なっ――!!?』

「さあこれで動き――は、」



 得意顔だったマトヴェイが無表情になる。

 魔法障壁を展開していたイミア・ルエリケは涼しそうな顔で彼に向け歩き出した。



「不注意。わざととはいえあの獣畜生けものちくしょうのフィールドに誘い込まれているのです。このくらいのからめ手、想定して然るべきですわよ」

「ご、ごめんなさ――くっ、全然取れないこれっ」

「『風鳴の雅樂(ガノウィント)』」



 イミアの呪文(ロゴス)に応じ、三人の足それぞれを包むように風属性かぜぞくせい中級魔法ちゅうきゅうまほうが発動。

足かせとなっていた軟体大理石が風化ふうかするようにチリと化す。



「チッ、風属性――――ッ!?」



 マトヴェイの目の前にここまで黙っていたビージが瞬転(ラピド)し、



「お前っ、」



 踏み込んだ左足(・・・・・・・)と共に放たれた左拳ひだりこぶしの一打がマトヴェイの兵装の盾(アルメス・クード)をあっさりひび割り、



「ビージ――」

「終わりだ」



 腰を乗せて放たれた渾身こんしんの右拳がマトヴェイのどうを深々と打ち抜いた。


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