「外道」
「……は?」
「この結界、時間が来るまで解けないタイプの魔装具ですわよ。旧式の指輪タイプ、まだ使っている情報弱者がいるなんて知りませんでしたわ。どなたからお下がりを与えてもらったので?」
「…………知ってたに決まってるだろ。男に媚びるしか能のねぇメスの分際でイキりやがって、見るに堪えないな……体の方も。肉が乗ってるぞ」
『!』
イミア、そしてマリスタが表情を険しくする。
それを見て、マトヴェイはなおさら気分良さげに笑った。
「素材の良さではアルテアスには及びもつかないが、まあいいだろう。少々肉付きがいいくらいが抱き心地はいい。『ペット』程度には可愛がってやるよ、お前も」
「……一番嫌いなタイプのガキですわね。汚らわしい獣畜生」
「喚いてろ、そのうち何も解らなくしてやる――そんな型落ちは放っておいて、話をしようじゃないか。なぁアルテアス。君には一度言葉を尽くして話をしなきゃならないと思ってたんだ。なにせ、俺の言葉を理解するだけの頭さえ、もっていなかったようだからね」
睫毛の長い目を細め、薄く笑うマトヴェイ。
わずかにウェーブのかかった滑らかな髪が揺れた。
「……私、たしかに難しい言葉は解んないけど。人の体のこと悪く言う奴がクソだってのは解るわ」
「君には責任がある。そうじゃないのか、アルテアス家のお嬢様?」
「!」
「この国を見てみろよ。王家リシディアはもはや風前の灯火だ。老いて耄碌しかかったジジイにわがまま放題のバカ女。誰がこんな王についていきたいと思う?」
「私はココウェルに付いていきたいッ!」
「人の話を遮るなメス。――仮にその出涸らし王女が即位したって未来は暗い、あの王族では遅かれ早かれ滅ぶんだよこの国は。誰かが代わりをやらなきゃならない、その筆頭はリシディアの誇る四大貴族だ!――ま、ひとつはもう潰れてやがるけどな。いや? そういえばもう一つの家も潰れたんだっけ。なんせ嫡男が戦死したんだからな!」
「――イグニトリオ君は死んでないッ!!」
「ティアルバーは破滅した、イグニトリオには年いったオッサンだけ、ディノバーツには貴族ですらない入り婿と使用済みの非処女しかいない!――解らないか? まだ誰も手を付けていない、王の子を孕んでこの国を次の世代につなげる存在はもう、お前以外にあり得ないんだよマリスタ・アルテアス!」
『それ以上しゃべるなッッ!!』
マリスタとサイファスが、怒りと嫌悪に満ちた声で同時に叫ぶ。
マトヴェイはこの上なく楽しそうに笑った。
「ははは、その顔だ。余計な男の声は混ざったが――俺の言葉にイラついたその顔が見たかった。もう二度と見ることができなくなる顔だからな、いい見納めになったよ」
「黙れクソ野郎ッ! かかってきなさいよ、二度と立てないようにしてやるッ!」
「腰が立たなくなるのはお前の方だ――まあいい。言葉以外にも前戯ようはある……今度こそお前を王子の王女にしてやるよ、マリスタ――!」
音もなく魔弾の砲手が飛び。
マトヴェイはそれを、片手で弾き飛ばした。
『――――――――…………』




