「退路を断ち断たれ」
顔を上げるマリスタ。迫る二人の黒装束。
マリスタが立ち上がるより早くアルクス二人が彼らに対応し、彼女の視界外へと消えていく。
その間にも超速の矢は次々部屋内に着弾し、手すりや壁を削り取っていく。
「ムチャクチャするわね、まったく……!」
「ノイスとレックス、そこの火属性の義勇兵は残れッ!」
黒装束と斬り結び離れたガイツが叫び、離れた黒装束を追尾魔弾の砲手で追い撃っているイミアを見た。
「……後の指揮を頼みますッ、魔術師長殿!」
「――解りましたわ。全員流れ弾に気を付けて進みなさい! 二階中央の扉を抜けますわよ!」
「で――でも兵士長ッ!」
マリスタが一階中央のガイツへ叫ぶ。
ガイツは既に黒装束との再度の応酬に入り、マリスタに応えない。
いつの間にか隣に来ていたイミアが彼女の肩をつかんだ。
「愚か者ッ、聞き分け――――いえ、信じなさい自分の仲間を。彼のように」
「!」
マリスタが動きを止め――表情を引き締めて先へ進む。
イミアは自分の言葉に戸惑ったように二、三度瞬きして進む班員の後を追い、後ろ手に扉を閉める。
残るはマリスタ、サイファス、ビージ、イミアの四人だけだった。
向こう側に現れたのはまたも続く長い廊下だったが――誰も奇襲の不安を感じなかった。
「――奥の扉へ」
イミアが言う。異を唱える者はいない。
それも当然。
廊下の突き当りに存在するT字の分かれ道、その中央にある分厚い作りの大扉の向こうから――あまりにもあからさまな魔波を、誰しもが感じていた。
近付けば近づくほど、それは鮮明になっていく。
「……誘ってますね。明らかに」
「……そのようですわね」
「あの扉……でかいホールみたいなとこに、続いてんじゃないスかね」
「え。誘……じゃあ罠とかなんじゃないのバディルオン君、あれ」
「いいえ。特に構えることはありませんわ。この魔波なら」
「え? ま、魔術師長、何か知って――」
マリスタが問うより早く、イミアが扉を開け中へ入る。
他三名もそれに続き、その部屋の広さを実感した。
そこは大理石で作られた、グランドホールの如く広い大広間だった。
壁は扉以外一面がアーチ窓に埋め尽くされ、床はデザインが施された大理石が敷き詰められている。
天井は遥か高く、十メートルを優に超えている。
階段状に吊るされた暖かな灯りは、マリスタらの足元から幅広な階段を下って真っすぐ伸びる絨毯を挟むようにして天井へ続く。
対面。
暖色の明かりに照らされた、反対側の大扉の前に――浅黒の肌に金色の髪を持つ少年、マトヴェイ・フェイルゼインの姿はあった。
「……待ってたよ。マリスタ・アルテアス」
『!!?』
マトヴェイが不敵に笑い、指を弾く。
途端、緑の光が部屋中の壁を伝って走り――――大広間を外界から完全に隔離する。
「っ! と、扉が開きません魔術師長ッ!」
「閉じ込められたのか……!」
「綺麗に引っかかってくれてありがとう。馬鹿揃いなのが解ってありがたい――」
「馬鹿はあなたですわ。このような安い結界魔法、見破れないと思って?」
イミアが歩み出て、細めた目でマトヴェイを見る。
「あなたは捕らえたのではない。私達に捕らわれたのですわよ。お馬鹿さん」




