「出会い頭の1分30秒」
「俺が先陣を切るッ!」
言うが早いかガイツはパルベルツを左下から小さく切り上げ閃風陣を飛ばす。
壁と床を粉砕しながら飛んだ風の斬撃はいくつかの矢を破壊し、またいくつかを減速させ――と同時に、アルクスの一人が煙で構成された魔弾の砲手を発射。
二階廊下は煙幕とほこりで埋め尽くされた。
そこにガイツが瞬転で飛び込んでいく。
「兵士長っ!」
障壁が砕け散る音、おいて剣戟の音。
『障壁を展開して来いッ!』
かなめの御声で飛んできた指示に一も二も無く従ったアルクスにマリスタらが続く。
煙でほとんど見えない廊下をいつ矢が障壁を突き破るか恐々としながら進み、やがてバジラノの黒装束が矢を放っていた曲がり角へとたどり着き――――煙の通路を抜け、突然視界が開けた。
そこは屋敷二階のロビー。
迫り来る矢。
そして眼前に迫る――二人の黒装束。
超速の矢がマリスタの障壁を貫いて止まる。
「うぎゃああっっ!?!」
慌てて腰を低くし、柵のように続く手すりの陰へと身をひそめるマリスタら。
黒装束に対したのはイミアとビージだった。
五属性の魔弾の砲手を隙間なく放つイミア。
跳躍し迫っていた黒装束は――消えた。
(!! こいつっ、)
否、消えたのではない。
イミアの弾丸が前方を埋め尽くすより速く、黒装束は――わずかな弾道の隙間に体を捻じ込むように瞬転を繰り返し彼女に接近、背後に回り込んだのだ。
(このわずかな空間で、五連続ほども瞬転を――!!)
イミアの物理障壁が、
「!?」
背後からの右腕噴流パンチにひび割れ――――逆噴射した右腕の噴流に引っ張られるようにして繰り出された左の噴流パンチが、完全に叩き割る。
「チ――――ッ!」
「――――――、っ!」
跳躍し二階の柵を乗り越えるイミアに追いすがった黒装束がアルクスによって横槍にひるむ。
ほぼ無音の瞬転により、イミアは滑らかに一階中央へと着地、何とか黒装束から距離を取ることに成功する。
いまだ誰も援護できていないのはビージの方だ。
「バディルオン君ッ!」
「うおおおっ――――おぉっ!?」
四十センチほども小柄な相手を前に、ビージはマリスタの声に返す余裕もないほどに追い詰められていた。
丸太のような腕をどれだけ素早く振り回しても、速さでなく小回りで翻弄してくる相手には歯が立たない。
黒装束はヴィエルナもかくやというほどの体捌きでビージの腕を逆上がり、肩から肩へ側転し、股を抜け背後を取り懐に潜り込み攻撃をかいくぐり、彼に確実な打撃を加え、
「バディルオンッ!!」
アルクスの駆け付ける寸前に、とうとう――――障壁無しの噴流パンチが、ビージのあごを真下から貫いた。
が。
「……!」
「んの……」
ビージの首の筋肉が、モリモリと、蠢き――
「野郎ォッ!!」
怒りの目が見下ろし、黒装束を捉える。
噴流パンチはビージの首の筋肉と拮抗し、ビージの向こうから迫るアルクスと左右からの丸太のような腕を躱し、黒装束は後退せざるを得なかった。
後頭部の下を揉みほぐすビージ。
黒装束は右手を何度も握り直し、腕の装置の出力を確かめている。
確かめるまでも無く、正常である。
正常でないのは――
(あいつ――少し弱ってねぇか?)
「ぼさっとするなバディルオンッ!! 矢を警戒しろッ!」
「!? うおぉっ!?」
ビージの真横で柱が砕け散る。
黒き射手は――――
(こいつ――恐らく一番の手練れか!)
ガイツと斬り結びながら、いまだ矢を乱射し続けていた。
大剣のガイツでは対応できない近距離へ迫りながら逆手に構えた短刀で的確に急所を狙い、得物を棒きれのように扱うガイツの規格外な剣捌きにより未遂に終わると軽業師の如き動きで脱し、矢を放つ。
応じ、ガイツもその巨体からは想像もつかない俊敏さで矢を紙一重躱し大剣で防ぎきれず、超速の矢がパルベルツの刃先を貫いた。
『!!!!』
――さしものガイツもひるみ、後退する。
ここぞと襲い来る超速を相殺せんとガイツは手の中に竜巻を発生、無詠唱
風神の歩みで矢をすべて吹き飛ばそうと――
――発生した大風が、残らず黒装束の矢の射出口へと吸い込まれた。
『ッ!!?!?』
「障へ――いや違う避けろッッ!!!」
ガイツの一喝。
装置内で圧縮され、もはや斬撃となった風圧がロビーを斜めに蹂躙。
二階へ至る木製の階段を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「さ……さいふぁす、ありがと」
「いいから前見てろ――もう来てるぞッ!」
「!!」




