「強者の乱戦」
アルクスの声に、ガイツ班が身を固くする。
芝生に燃え移った残火を踏み消しながら――手元で風車を弄ぶ前髪の長い少女は、場違いに心地よい口笛を響かせる。
「……あれも手配者だ、ガイツ。『削ぎ風』のノーレン」
「『火』と『風』。じゃあ今の火炎は――」
「来るぞ!」
口笛が止まり聞こえた、風を吸い込む鋭い音を察知したガイツが叫ぶ。
オーバーサイズの白いコートを着た『火事場』が手甲を付けた手の甲同士を火打石のように打ち合わせ――――放たれた火花が大火力となって庭を覆い尽くす。
併せ、『削ぎ風』が口元にかざした風車に口から風を送り込み、
「任せろ!」
大障壁は、再び放たれた豪火をせき止めた。
一面の炎の向こうでは、巻き添えになった悪漢達が焼け死んでいく断末魔。
マリスタは奥歯を噛みしめ、ガイツを見た。
「兵士長っ、私が――」
「あの大火に勝てる水を出し続けられる、と?」
「――うう、」
「あの大障壁魔術は燃費がいいのがウリだ、守りはロイに任せていい! メテア、サフィジー! 抑えられるか!」
「任せろ!」
「私達の『水』で今度こそ終わりにしてやるわッ!」
「総員聞け! 先に命じた三人と召喚獣を残し、我々は二階バルコニーから屋敷内に突入する! どんな敵が待っているか分からん、物理・魔法障壁を展開したまま押し入れ!」
「隊を分けるのは? 一階からも――」
「人員が足りません。突入時に奇襲や罠に対応できる人数を確保したい」
「――致し方ないですわね」
「ロイ、障壁を一部解け! 俺の前に道を作る!」
「了解――3、2、1、開けるよ!」
マリスタらの前で障壁が消え、怒涛のように火炎が押し寄せ――
「閃風陣」
風の大刃が駆け、攻撃周辺の火炎を残らず吹き消した。
屋敷に展開されていた魔法障壁に跳ね返った風により、庭を嵐の如き風が襲う。
「うきゃあっ!」
「やはり耐魔加工の建築物か」
「……ヘヴンゼルでもこれで大丈夫だとばかり思ってましたわ」
「――先行するアルクス二名に続けッ! 跳んでバルコニーへ押し入れッ!!」
アルクス二名が手配者に向かった後に障壁が成形され、バルコニーまでの道が作られる。
直後押し寄せた新たな炎が、障壁に阻まれ空に立ち昇る。
同時に炎の向こうで水しぶきが上がり雨となり――風と炎と雨の混乱の中を、マリスタ達は進んでいく。
「やぁっ!」
英雄の鎧で強化された脚力を使い、一息にバルコニーへと跳ぶ。
そして踏み入った先、バルコニーから続く絨毯敷きの廊下で――――障壁が突如、ひび割れた。
「――――は?、」
「マリスタ伏せろッ!!」
サイファスがマリスタを押し倒す。
直後――――再度貫かれた障壁が完全に崩壊し、更に放たれていたトドメの一矢が二人の頭上を通過していった。
「なっなっなっ、な、」
「ガイツ!」
「兵士長! あいつら――」
「――次から次へとまあ出てくるものだな、新兵器が。なあバジラノ」
マリスタが何とか立ち上がり見た、進むべき先。
茶色の豪奢な壁が長く続く廊下の果てには――――腕に取り付けた手甲から超速の矢を射出する、仮面の黒装束。
(この狭さでは避けられない――!!!)




