「緑はさみし前口上」
「んん? なんだ、なーんか見覚えある顔がいやがるな? まあいいや――よくここまで来たなアルテアス!」
「あんたがマトヴェイ・フェイルゼインね!?」
「……色んな意味で酷い女だ。あれだけ顔を合わせていたのに覚えてないのか」
「どうしてこんなことに協力してるのッ!?」
「そうだな――君が俺の女になるってんなら教えてやってもいいぞ?」
「……は、あ?」
「……やれやれだ。相変わらず頭の足りない女――だからこそお前が欲しいんだけどな」
「何ワケわかんないこと言ってんのよっ! あんたは敵なの、味方なのッ!」
「まあ、いいか――――敵に決まってるだろ。こんなサビれた国に執着してないでこっちにこいよ。俺もお前も本来はそうして生き延びてきた家じゃないか」
「!?――――あんたなんかと一緒にすんなッッ!!」
「だったら早くそんなとこ突破して来いよ、ヒーロー気取り。できるものならね」
「焚ァきつけるなアホ息子っ! ッ――オラお前ら止まるなァっ!! やれ――――ッッ、殺せ――――ッッ!! 討ち取った奴にはいくらでも金をやるぞ! いくらでもだァァ――――!!!」
悪漢達が意気込む音。
バルコニーから消えるフェイルゼイン家と共に、庭の戦場は再び乱戦の様相を呈し始めた。
「……サイファスッ!」
「……どうした!」
「私――どうしても屋敷の中に進みたいッ!」
「言うと思った。だが俺も行くぞ。絶対にお前を殺させない。義父さんにもそう言い付けられてることだしね」
「――言うと思った!」
口の端を持ち上げるマリスタに笑みを返し――――サイファス・エルジオは懐の魔法符を取り出す。
「さて――このくらいの大きさでいいかな?」
大きさのそう変わらない二重円の縁に呪文が隙間なく書き込まれた魔法陣が光り、空へ舞い上がり――――視界を覆わんばかりの光の中から這い出るようにして、巨大な岩が連結した姿の身の丈十メートルもの召喚獣が、足元の芝生をえぐりながら地に降り立った。
動きは鈍重。
しかし攻守ともに、悪漢達にはどうしようもない。
「ウおおおおなんじゃあああ!?!」「ゴーレムだ! ゴーレムって奴だコレ」「昔あこがれてたんだよなァー!」「感心してる場合かッうぎゃあああ!?」「ひるむなひるむなァっ! 戦え、戦うんだよ!」「どうやったら倒せんだこんなのおおぉっ!」「剣刺さんねーって!」
「おい、こっちのデカブツの野郎も――おごっ!?!?」
顔ほどもある拳であごを打たれた悪漢が、折れた粗悪な剣を落としながら吹き飛んでいく。
「大振りすぎるぜッ!」
「もらったぞデカブツッ!!」
拳を戻しきらないその男の腹部に、悪漢二人がナイフを突き立て――――折れる。
『――――は??』




