「たったひとつ、願った言葉」
「え、」
「私はシャノリア・ディノバーツ。さっきは酷いことをして、ホントにごめんなさい。この子、血の気が多くって」
「せ、先生ったら……う。そんな目で見ないでよ、謝るってば。ごめんなさい……私は、マリスタ・アルテアスっていうの」
……横文字の名前か。流石違う世界だ。まさかとは思うが、アメリカだったりしないだろうな。ここ。
ということは、当然俺も――
「……ケイ。ケイ・アマセだ。事が事だったから謝る必要はないが、あれは一体何だったんだ? 水の塊が浮かんでいて……」
「あれは、このマリスタの魔法の特訓だったのよ。先生からの、出来ない子への特別授業ね」
「ちょ、ちょっと先生っ! 今はいいでしょそんなことっ」
「ごめんごめん……だから、私達もあなたが急に空に現れてびっくりしたのよ、アマセ君。一体どうして、どうやってあんなところに現れたの?」
…………。
「……解らないんだ。現れたのがどうしてあそこだったのかも――どうしてあそこに、現れたのかも」
「???」
マリスタと名乗った赤毛が眉根を寄せる。シャノリアは顎に手を当てて少し考えた後、俺の目を見た。
「つまり……私の家の庭に飛んできた理由も解らないし、飛んでくることになった経緯も解らない……こういうことでいいのよね?」
「その通りだ」
「え? ってことは、アマセ君は……」
「要するに、どうしてここにいるのか、自分じゃ何も分かってないってこと」
「ええ?! 大変じゃないですか!」
「それに……言いにくいんだが。名前は思い出せるが、それ以外のことが……頭に、もやがかかったようになって」
「……思い出せないの?」
シャノリアの表情が少し険しくなる。俺はさも辛そうに頷いてみせた。マリスタはその赤い目をまん丸にして驚く。
「記憶喪失ってやつ……!?」
「そうみたいね……でも困ったわ。名前以外は思い出せないんでしょ?」
「ああ……色々確認したいことがある。この国の名前は?」
「ええ、何でも聞いてちょうだい。この国は『リシディア王国』と呼ばれているわ」
王国――王政国家、君主制の国、ということか?
まるで中世ヨーロッパのような世界観だ。
「そういえば……あなた、顔立ちがリシディア人じゃないわね。どちらかと言えば、そうね……東国のタオ人のような」
「タオ人?」
「リシディアの東に位置する国よ。南には海、西にはバジラノ、北にはアッカス帝国……どこにも、聞き覚えはない?」
「ああ。今のところは……この近くにどこか、町や村は?」
「魔法陣を通ればすぐだけど……距離的には遠いわね。この周辺は森に囲まれてるわ。学校なら、近くにあるんだけれど」
「学校が?」
「そう。『プレジア魔法魔術学校』っていうのよ」
――ちょっと待て。




