「やっと目の前に」
「やべえやべえやべえっっ」「行かせるなァァァァッ!!」「立て立て立てッ! 一発の魔弾の砲手程度で倒れてる場合かァッ!」
悪漢らが立ち上がり――火弾の砲手や暗弾の砲手を食らった者は既に立ち上がれもしない――、がむしゃらに近くを駆ける人物に襲いかかる。
それがアルクス兵士長、ガイツ・バルトビアであった十数人の不幸な悪漢が、真っ先に意識を飛ばすことになる。
「来い。パルベルツ」
『ぐあああああっ?!??!』
足を取られ、胴を裂かれ。
ガイツの懐にある杖を柄とし、突如現れた翼を模した赤き大剣、パルベルツ風のひと薙ぎで、悪漢の十数名が吹き飛んでいく。
「うわったったったったぁ!」
「ぐぎゃ!」
「うおっ」
「ぶふっ!?」
ガイツの放った風の余波によろけながらも体勢を立て直したマリスタが、身長ほどもある長さの水の棒――所有属性武器を縦横無尽に振り回し、叩き落し、棒高跳びのようにたわませながら――――
「逃がさねぇぞ!」
「囲め囲め囲め!」
「あれ!? くっ――」
――悪漢らに包囲される。
じりじりと迫る悪漢らの渦の中心でマリスタは慌てて所有属性武器を手元に振り戻し、
「こういう――ときはッ」
「今だァ!!」
合図と共に一斉に得物を振り上げた悪漢達に――――流動化したマリスタの水の棒が回転し、派手な水しぶきが吹き荒れた。
思わず悪漢らが目を閉じ、マリスタを見失う。
「からの瞬転ッッ――――からのっっ、」
獲物を狙うヒョウの如く四つんばいに身をかがめたマリスタが、大柄な一人の悪漢の股をくぐり抜ける。
着地の瞬間足のふんばりで体を反転させ――――魔弾の砲手を数多く展開。
「魔弾の砲手ォ――――ッ!!」
迫った男達、すべてを吹き飛ばした。
「うっぎゃー!!! てかさっき瞬転したときぜったいアタマがタマにこすった!!! きンもちわる――」
「まだ勝敗を見極められんかバカ共がァァッッ!!!」
『!!!』
連合軍、悪漢らまでもがそのだみ声に反応し顔を上げる。
フェイルゼイン商館二階、屋敷より突き出た手すり付きのバルコニーから身を乗り出しているのは――
「あいつが――ノジオス・フェイルゼイン!」
「バンターに四散させられておいてェっ!! 逃げ場を失って破れかぶれの特攻とは見苦しいぞッ!!」
「だァれが破れかぶれの特攻よチビオヤジ! 逃げ場がないのはあんたの方よッ!」
「ぬぐぐぐぐぐぐぐぐ――――――――」
「いいから。どいてなって親父」
「! あなた――」
怒り心頭のノジオスを押しのけ現れた少年に、マリスタは――ビージは見覚えがあった。
「……マトヴェイ……!!」




