「背水、あるいは窮鼠」
「ずわっははははは!! これが・笑わずに・いられるか!?!? ずわァ――っはははははは!! 間抜けなプレジア共めがァッ!!」
黒いシルクハットをかぶった小男、ノジオス・フェイルゼインは、腹を抱えながら椅子の周りを飛び跳ねて笑う。
「こと・ここに・いたっても・なおたァ~~ったひとりのために全員の身を危険にさらすゥゥ!!! 何も学ばぬ脳・ミソ・筋肉! 共がァァ~~~!!!!!ッハハハハハハァ!!!」
「だから親父、まだ勝ったわけじゃないんだからそう浮かれるなって……」
「勝ち勝ち勝ちなんだよもうっ!!」
下あごに金歯を光らせ、ひげを右手でひっきりなしに伸ばしながらノジオスがニンマリ笑う。
「後門はバンター、前門は人質ィ!! いったいこれ以上どぉ~~~~~っこに奴らの・勝ち筋が・残されて・いるんだァ~っははははっははははァ!」
「楽観的なのもそのへんにしろよ。奴らを捕まえたのはあのワケ分かんねぇメスガキ三匹だろ? 居住区を見張ってた」
「ちゃァんと記録石でも記録されていた、疑う余地はないぞぉ!」
「じゃ抜け出されてるじゃねーか。居住区まで」
「……ァ?」
「そう……この状況を甘く考えない方がよいかと」
ノジオスが動きを止める。
マトヴェイ・フェイルゼインに同調したのは仮面の黒装束、三人組だった。
「……おめおめと・やられて・しかも三人がかりで・やられて帰ってきた奴が何をぬかすのかな???」
「時間を計算に入れておられますか。我らは敵の正確な位置もつかんでいない。逆に、我々がどこに本拠を持っているかなど、あなたが顔と名前を出している時点ですぐに検討がつく。どちらが迅速に動けるかなど子どもでも分かる」
「そ――そういう場合に備えてのお前らだったんだろうがァ? えぇ??」
「更に敵は居住区で捕まっている。つまり――奴らは我々の切り札であったバンターを少なくとも出し抜いてここにいる」
「…………、 そういえばドコで何をやっとるんだあいつ今ァ!? まったく、勝手な行動ばかりしおってェ……!!」
「あのバンターの手を逃れることができる実力者が、いまだ複数行方知れず。この恐ろしさを理解した方がいい。そしてもう一つ……敵は今、国の滅亡を目の前にしています。ここで勝てねば、奴らにはもう戦う場所もなく、意味さえ希薄になる」
「ならば部隊が全滅間際となった時――――逃げる以外に考えられる選択肢は何です?」
「――――――、」
「フェイルゼインさんッ!!」
答えを予見するかのように、ノジオスの書斎に駆け込む悪漢。
ノジオスに報告を促す間さえ与えず、彼はその場の五人に叫び散らした。
「プレジアと――プレジアとリシディアの残党連中が、もう屋敷の庭にっっ!!」
「な……何ィィィィィィッッッ!?!?!?」




