「三姉妹――①」
石階段を降りて現れたのは、先にどこかへ消えていった三つ編みのツインテールを揺らす少女。
(たしか――カシュネ、だったか。こいつらの中で、一番上の姉貴)
「話しちゃダメだって言ったでしょう、ミエル。隙を見せたら何されるか分かんないよ」
「きいて、この人しっていたのよ。お母さんの『たいせつなひと』のこと」
「え? 『大切な人』の?」
「『アヤメ・アリスティナ』……奴はそう、名乗ってた。本名かどうかは知らねぇぞ……ごほ、」
「……デタラメじゃないの?」
「体の傷から魔波を感じたんだとよ。母さんの身体に残ってたのと同じにおいのやつを」
「……ふーん、この子の鼻なら信用できるわね」
「あの大男……何者なんだ? どうやってあんな――」
「バンターっていうのよ」
「フツーに名前バラすなオイっ」
「バンター……? あいつも、アンダンプから来たのか」
「……さぁ。知らないわ」
「オイいいのかよ。ヘタにこいつらと――」
「少しでも母さんの情報、欲しいからね。色々と口をスベらせるかもしれないし。しぼれるだけしぼり取っときたいじゃない? あり過ぎて困ることはないんだから、お金は」
「! じゃあ――交渉成功したのか? あの金ヅルと?」
「もち。この仕事が終わったらパーティーしましょ、バンターと四人でね」
「うひょう」
「ハハハ、ドケチの姉貴にしちゃ羽振りいいじゃねえか」
「付いてきた甲斐があったってもんね。バンターも大活躍してるそうよ、こいつらの仲間を半分くらい一人で片付けたみたい」
「はは、さすがだな。ほんととんでもねーよ、あのおっさん」
「…………お前達。そのバンターって男といた時間は短いのか?」
「なんかげつかまえにあったばかりよ。それからはずっと一緒にいるけど」
「こんな生活してるから、命を狙われることも多くてね。住処を焼け出されちゃったのよ」
「!? 焼け――」
「してやられたわ。そのときは敵の動きを察知できなくて。そしたら――」
「……追っ手からバンターが、助けてくれた?……」
「うん。強かった。てきからすこしも、こうげきをうけなかった」
「成り行きだったと思うんだけどね。でもあいつは私達を助けてくれた」
「テメーらみたく言葉だけじゃなく、本当にな」
「だからわたしたち、ホームレスだったバンターをあたらしいいえにすませてあげることにしたの」
「体調悪そうだったしね。恩を仇で返したら、結局自分達がしっぺ返しくらうし。だったらと思って家にかくまったの――そしてそれは正解だった」
「それにやさしかったのよ。まるで……お父さんみたいに」
「ミエル。私達にお父さんなんていないわ」
『――――……』
強さと、優しさ。
それが、三姉妹がバンターについていく理由。
「あの人は強い。絶対私達を守ってくれる――とは言い切れないかもしれないけど、あの人に付いていくことが現状、私達が生き残る最善の方法だった。今だってそうでしょ? バンターは私達の近くにすらいないのに、結局あんたらの半分を打ち殺した。ほんの少しの時間で私達の脅威を半分も削ってくれたのよ。だから私達は私達の仕事に集中できる」
「仕事……?」




