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「小さな異世界」



 かわいた目でロハザーを見下ろすミエル。

 十一歳にして、果ての見えない絶望をその目にたたえるトゥトゥ。

 そんな少女らに殺されかけ、意識が遠のきかけている自分。



〝でもわたしたちはこううんだわ。ほかにもいっぱい、いっぱいいた(・・)んだものね。きっと〟



 他にもいた(・・)という、彼女らと同じ境遇の子ども達。



 ロハザーは知らなかった。

 「アンダンプ」――世の闇が一挙に集うと言われる底の知れぬ魔窟まくつに、まさか幼き子ども達までもがとらわれていようとは。



(……いや……)



 知らなかったのではない。

 大きな犯罪や事件に、何も知らない子どもが巻き込まれていた、なんていうのはよく聞く話だ。

 そうした事件を、日常に聞こえてくる「雑音」の一つとして――ロハザーは見て見ぬふりをしてきたに過ぎないのだ。



 彼の父や親類の大人達は、幼きロハザーや兄弟らを必死で守ってくれた。

 貴族の格を、誇りを、生活を守り――――ロハザーの世代までつないでくれた。それは今もなお。



 そんな風になりたいと思った。

 後の世を担う者達に、まだ幼き兄妹や従姉妹いとこらに大きな背中を見せられるような人物になりたいと――そのために戦う者になりたいと、願ってきた。



(――――甘かった)



 乾いた四つの小さな目が、彼を見下ろす。

見下みくだす。

少女になぐつぶされた傷が、じくりじくりとロハザーを刺す。



 まるで彼の理想を嘲笑あざわらう神が、少女達をここにつかわしたかのように。

 彼の理想の愚かさを、痛みで伝えているかのように。



(一体俺は……何をどうすれば、こんな境遇の子ども達を救えるってんだ?)



 彼の前には少女達がいた。



 彼の前には、とてつもなく大きな壁があった。



わかりますかな? もうリシディアは滅んだも同然なのだと――――既にこの国に立てたくもない(・・・・・・・)みさおを立てる必要性は皆無かいむなのだと!!〟



 げらげらと笑っていた醜悪しゅうあくな小男。

 あれ(・・)よりよほど理知的に見える目の前の少女達は、それでもあんなものにこうべれて従っている。

 それが、ロハザーにはどうしてもせなかった。



「なんでだ……」

「はは。まだしゃべれんのかよコイツ。ガチでウゼーな……おいミエル。もう口()い付けちまってもいいんじゃねーか? 聞くこときいたんだろ」

「そうね。この人たちをひとじち(・・・・)にすれば、ロハザーより『たいせつなひと』にくわしい人もきっとみつかる……ああそうだ。ねえ、さいごにおしえてほしいのよ。『たいせつなひと』……名まえはなんというの?」

「なんでお前らはあんなバカそうなチビオヤジに従ってられるんだ……?」

「……それがさいごの『とりひき』なのね」



 ミエルは淡々と続けた。



ちがう(・・・)よ。あんなおじさん、どうでもいいの。わたしたちは」

「『最強』についてきてんだよ。テメーらみてーなヘボい大人共とは全く違う、本当の最強にな!」

「――最強。あの、大男のことか」

「……なんだ。もう――」

「会ってたのね。それだけ弱いくせして、よく生き残れたもの」

『!』


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