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「母親」

「でもわたしたちはこううんだわ。ほかにもいっぱい、いっぱいいた(・・)んだものね。きっと」



 無意識か、ミエルが着ているワンピースを抱きしめるようにして、服の前をつかむ。

 鮮やかで楽しげな布をつぎはぎして作られた、粗雑そざつな一枚布。



 単に金がないだけなのか、それとも。



「…………」

「……もうひとりのあねさまに、つくってもらったの。ずっとこれを、きてたくって」

「もう一人の……あの三つ編みのガキも姉妹なのか。どいつが一番上なんだ?」

「おいテメーいつまでも調子に――」

「うえからカシュネ、トゥトゥ、わたし。そういうことになってるの」

「みーえーる!!!」

「いいじゃないのべつに、ケチなあねさま」

「さっきからお前ばっかしゃべらされてんの気付けよ!!」

「そういうことになってる、ってのは……ごほ、」

「ちのつながりないもの。お母さんがじゅんばんきめたの」

「お前マジ黙れミエルてめっ!!」

「もご。あぐー」

「ってぇええっ?! かむなかむなおいっっ」



 じゃらじゃら、と黒い服のそでに着いた鎖を鳴らして痛みに手を振るトゥトゥと呼ばれた少女。

 その出で立ちは見るからに洒落しゃれこけており、着の身着のままといった風情のミエルとは似ても似つかない。

 顔立ちこそ三人とも整っているものの、そこに血のつながりは見出せない。



(……じゃあ、「お母さん」ってのは)



「お母さんにひろわれた(・・・・・)じゅんばん。よんさいのころにね」

「…………」



 ロハザーが顔をますますゆがめていく。



 彼女ら三姉妹がたどったであろう「結末」に、一人先んじて思い至ってしまったから。



「……今は三人で暮らしてるって言ったな。…………………………」



 言葉を切り、ロハザーはトゥトゥを見る。

 その目には、例えようもないほど張り詰めた怒りがたたえられており。

それだけで、母親の身に何が起こったのかは明白だった。



 そして、母親の身に「何か」を起こした人物にさえ――ロハザーは否、プレジア勢は(・・・・・・)心当たりがあった。



「……知りたいっつったよな……お前らの母親の『たいせつなひと』の、こと」

「うん。おしえて」

「いや……無理だな。っていうか違う。俺に傷を付けた女とお前らの母ちゃんの『大切な人』が一緒なわけねェ、あいつが――――あんなド畜生ちくしょうが誰かに大切にされるような人生を送ってたワケがねぇ」

「どちくしょう? 『たいせつなひと』はなにをしたの?」

「この傷の通りだよ。俺は奴に真っ二つにされかけて、学校中のやつらを殺そうとして――――ダチは背骨ヘシ折られるわ腕落とされるわ、おまけに王女までオモチャにしてもてあそんだ。そんなやつがお前らの母ちゃんと――」

「まちがいないわ。その人で、たぶん」

「――何?」

「お母さん、いってたもの。『たいせつなひと』はおかあさんをころそうとする(・・・・・・・)だろうから、いっしょにはいられないって」

「……は……?」

「ほかには? 『たいせつなひと』は、ほかにどんなことをするひとだったの?」

「――あとはわからねえ。俺はそいつと口もきいたことねえからな。知ってるとすりゃあ――――」



 ロハザーの脳裏に、腕を落とされたダチ(・・)が映り。



 ある交渉(・・)が、頭に浮かんだ。



「――取引だ、ミエル」

「え?」

「おい」

「俺よりも、母ちゃんの大切な人をよく知ってる奴がいる。そいつのことを教えてやるから――――お前ら俺達に寝返れ(・・・)。このクーデターを止める手伝いをしろ」


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