「静かなる闘志」
――情けないことだが、相当動揺した。
いや、というかアングルが悪い。ローブを羽織っているとはいえ軽装な上、履いているのはえらく布地の少ないベージュのホットパンツ。そんな格好で、しかも人の顔の前でしゃがみ込むな。見せつけてでもいるつもりか。
なんとか立ち上がり、改めて眼前の少女を見る。もうすっかり覚えてしまった無表情な顔、肩の高さの黒髪、スラリとした体躯――――義勇兵コース、グレーローブのヴィエルナ・キースだ。
調べた限りでは、この時間の訓練施設は、全くと言っていいほど利用されていなかった。利用があっても余程気紛れな奴か、戦闘訓練に見せかけた逢引きが精々だった。
それが何だって、この女子はこの時間に、しかも俺の借りている演習スペースに立っていやがるのか。
「……こんばんは」
「…………ああ、こんばんは。風紀委員の、ヴィエルナ・キースさんだよね? 悪いけど今訓練中なんだ。出ててくれるかな、危ないし」
何が「こんばんは」だ。惚けてるのかこいつ。
「私。ヴィエルナ・キース」
「そう」
今言ってただろ。人をおちょくってるのかこいつは。
「何してるの?」
「訓練だけど」
今言ったばかりだろうが。訓練以外でここに来るか。……来てる奴もいるんだったか、そういえば。
そんなことは問題じゃない。
「そう。奇遇。私も訓練、しようとしてたの」
「そうなんだ。ぜひどうぞ、余所でね」
「ううん。ここがいいの」
「そう。じゃあ俺が移動するよ。良い訓練を。怪我しないようにね」
勘弁してくれ。
ただでさえ、妙なアングルから鉢合わせた後でばつが悪いんだ。
ともかく迅速に一人になって――――
「手合わせの相手。欲しいと、思って」
――――一瞬にして、その場の空気がヴィエルナに収斂した気がした。
「――――――、」
思わず目を瞬く。
目の前にいるのは、先程と全く変わらない、静かで緩やかな空気を纏った少女。
だというのに、受ける印象が明らかに違う。
「……あ。……相手、いた」
真っ直ぐ俺を見詰めたままで、開き直ったような猿芝居で。ヴィエルナはおもむろに手を上げ、俺を指差す。
やはりその表情に変化は見られない――否。この場合きっと、俺には変化を測れない、と表現するのが正しいのではないか。だってそうでもなければ、
「――――手合わせ。してくれる? ケイ・アマセ君」
これほどまでに穏やかな闘気を放つことなど、単なる能面少女に出来る筈があるものか。
「………………ハッ」
眼前の戦士に、意識を注ぐ。
テインツ・オーダーガードの一つ上、グレーローブ。
次の相手にしては、これ以上ない適役じゃないか。
「……受けるよ。丁度、色々試してみたい所だったんだ」
「……そう」
ヴィエルナは構えの一つもとることなく、ただ真っ直ぐに俺を見据えた。
上等だ。
食い尽くしてやるぞ、学校二番目の使い手。
「義勇兵コース、グレーローブ。ヴィエルナ・キース。いくよ」




