「闇の子ども達――①」
「ロハザー。わたしたちね、お母さんのことなにもしらないの。だからせめてしりたいの。お母さんがたいせつにおもってたひとのこと」
「んなもん直接母親――ぶぐッ!?」
『!?』
トゥトゥがロハザーのあごを蹴りつける。
一瞬痛みにうめいたロハザーだったが――トゥトゥの浮かべた沈んだ怒りの表情にすべてを察し、ミエルを見た。
聞こえていなかったのか、ミエルはハネた枝毛をいじりながら、虚ろな顔で踏みつけられたロハザーの顔を見つめたまま、小首をかしげた。
「なに?」
「ぶは、……あ、いや、えっと。誰が切ったんだよその髪、左右バランスおかしいぞガッ!?」
「テメェ――」
「いいのよあねさま、だってロハザーはしらないもの。きったのはわたし――うっているのよ。たまに。わたしの髪はおかねになるから」
「! 金――って」
髪の中から小さな白い櫛を取り出し、髪に通し始めるミエル。
ロハザーは――否、プレジア勢は残らず少女から目が離せなくなっていた。
髪を金に換える生活。
もういないらしき母親。
その場の全員が三姉妹の境遇を悟り――これまでとは違う沈黙に、場の空気が支配されていく。
「……孤児なのか。お前ら」
「ちがうわ。わたしたちは、さんにんでくらしているだけよ」
「それを孤児って言うんだぐっ!?」
「言わねぇんだよ。テメェらの憐れみにアタシらを当てはめんじゃねェ」
ロハザーの顔面に、靴の汚れと憎しみをこすりつけるようにしながら、トゥトゥが足をどける。
〝――お前。どこから来た?〟
〝内であれ外であれ、それだけの実力があるなら多少なりとも顔や名が売れていておかしくない。だというのに、私はお前をついぞ見たことが無い。国内外の情報すべてにおいてだ。もしやお前は――〟
孤児であること。
そんな身の上で、クーデターという犯罪に加担していること。
実力者にもかかわらず、名も顔も聞かない出自不明者がこの戦いに多数参戦していること。
「――リシディアに、」
顔の鈍い痛みなど、ロハザーは気にならなくなっていた。
ある悪寒が、頭を離れなくなっていたからだ。
「リシディアに住んでるのか。お前達は」
「わからないわ。わたしたちに国なんてないものね」
「……どこに住んでる?」
「ミエル、それ以上――」
「くらいところ。……ここよりもっと、もっと昏いところよ」
昏く濁った目が、ロハザーを捉える。
頬を歪ませながら、彼は悪寒を確信に変えた。
「……『アンダンプ』から来たのか。お前ら」
『!!』
「アンダンプだと……」
ファレンガスが思わず漏らす。
幸い聞こえてはいなかったが――――彼と同じく、アルクス達の中に転がされたアドリーも顔を険しくした。
「そう。わたしの生まれそだったまち」
「生まれ育った……あの犯罪大陸がかよ。じゃあ、クーデターに参加してる他の奴らも――」
「そこまでだぜミエル。それ以上はマジで許さねえ、いいな!?」
「……わかってるわ、あねさま。わたしだって、これいじょう命をねらうひとがふえるのはいやだもの」
「…命を、だと」




