「すんすんくんくん」
『!!』
「ッッ……ァ、」
「しゃべんなっつってんだ。次は舌切り取るぞザコ」
「……? 十いっさいですけど。すんすん」
「答えてんじゃねーバカミエルっ!」
「なんでこんなことやってる」
「っ? っの、テメーまだ――」
「ッッ――十一歳にもなってんならっ……物の良し悪しくれー、ちゃんと自分で考えられるトシだろーがッ」
面食らったトゥトゥに肩と腹部で傷口をぐりぐりと抉られているにも関わらず、全く意に介しない様子で口を開き続けるロハザー。
ミエルもそんな彼にとたとたと歩み寄り、かがんで何やら不思議そうに彼の顔をのぞき込んでいる。
「語ってんじゃねーよエラそうにッ! テメーにアタシらの何が――」
「解るよ。……いるんだ、俺にも。トシの離れた兄弟、従姉妹共がな」
「・・・は? それが何――」
「こんな血生臭いことっ、十一歳のガキがやることじゃねーんだよっ……! 俺の兄弟どもは、ちゃんと学校通って勉強してんぞっ。おめーらが今やるべきはそういうヤツだろうが……こんなとこでバカ共とつるんでバカやってんじゃねぇッッ!! 、 、っ、がは、」
「――――バカはテメーだよ。意識が戻っても、自分の立場もわかりゃしねぇ」
眼差しを急冷させながらトゥトゥがナイフを構え直す。
その先には、意思に光る目で彼女を睨み付けるロハザーの目。
「奪うなっ言われてんのは命だけだ。それ以外は全部奪ってやってもいいんだぜアタシ達は――――――!!!」
「すん」
『ッ!!!?』
ナイフが、文字通りロハザーの目と鼻の先へと迫った時。
ミエルが頭をロハザーの顔の上へと移動させ、トゥトゥは慌てて得物を引き止めた。
「ッ!?!? お、おいテメーミエルお前マジふざけてんじゃねーぞっっ! なんつー危ねえこと、まさかお前そいつをかばうってんじゃ――」
「くんくん。ここからだ。におい。すんすんすん」
「――は?」
「……におい?」
血の飛んだロハザーの顔に鼻を寄せながら、くんくん、すんすんと丹念ににおいをかぎ、体を移動させていくミエル。長い髪がロハザーの顔をくすぐる。
つぎはぎのワンピースを着た少女はゆっくりと彼の顔から首、胸へとその鼻を落としていき――――突然トゥトゥの手からナイフをかすめ取り、ロハザーの服を切り破った。
露わになるのは、
『!?』
「ちょ……おいガキ、」
「お――おいミエル、おま」
とある黒騎士により袈裟懸けに付けられた、ロハザーに残る刀傷。
「――これだ。ここから、あいつのにおいがするわ。あねさま」
「! あいつって、」
「……何のこと、」
「すんくんすん……あいつの魔波。お母さんの、『たいせつなひと』」




