「情けは人のためならず」
「しゃべんじゃねーよ」
椅子に座ってケーキをかじりながら凄む少女の足元に――血塗れのロハザー・ハイエイトその人が転がされていることに。
「誰が声出していいっつった。あ? 口焼き塞ぐぞテメー」
短気そうな少女が、目を見開いてヴィエルナを脅す。
ヴィエルナは彼女等の一人が、何のためらいもなくロハザーを複数回刺したのを思い出し、口をつぐむしかなかった。
赤黒く染まったロハザーの胴。
そこには止血さえされていない刺し傷が四か所も穴を空けており、床にはわずかに血だまりさえできている。
でも死なない。
「――――……」
少女らの人質の取り方は、こと魔術師に対するやり方としては最上のものだった。
まるで、これまでも同様の方法で人質をとってきたかのように。
「ごほ、がはっ……」
「っ!? おい、今の声はロハザーか!? そっちにいるのかっ」
「動くんじゃねーよオッサン」
背後を向いて拘束されていたファレンガスが身動ぎし、トゥトゥの方へと向き直る。
直情型の彼が、止血も無しに足元に転がされるロハザーを見て、冷静でいられる訳も無かった。
「テメェら――――俺の教え子を殺してみろッ、ただじゃ――」
トゥトゥのローヒールがロハザーの刺し傷に突き込まれた。
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁぁッッッッ!!!」
「ッ!!?」
「聞こえなかったか? き こ え ま せ ん で し た か ~ ァ ? 動くなっつったんだぜアタシは。あんまナメたことしてんじゃねーぞクソジジイ、おい。聞こえてたら返事しろッッ!!!」
「あ゛あ゛あ゛ッッッ――――!!!?」
「わ――わかったわかった!きこえた、きこえたからもう」
「勝手にしゃべってんじゃねぇば~~~~~~~~かッッッ!!!!! お前アタシが今言ったこともう忘れたのかよッ!? はははははははは!!!」
「あ゛あ゛あッッ、が、ぎゃ、あぅあ゛ァァァッァアア!!!」
「~~~~、、、、、~、~、~~ッッ!!!」
言葉にならない唸りを上げながら歯ぎしりし、憤怒と絶望に顔を白黒させるファレンガスが黙り込む。
ロハザーの下に広がる鮮血が小さく波打った。
「あねさま。うるさいわ」
「仕事だろーが我慢しやがれ。ハッ、大げさに叫びやがっていい年した男がよ。心配しなくてももう血もそう流れてねぇだろ、死ぬワケあるかよ、魔術師がこの程度で。ま、血が流れ切っちまったらわかんねーけどな。せいぜいマホーで食い止めてろよ、はははッ」
「…………俺は。大丈夫っすよ。先生」
「――あ?」
『!!』
口に入った血を唾液と共に吐き出しながら――――意識を取り戻したロハザーが笑った。
「おい。しゃべんなよ死にぞこない」
「…………いくつだ」
「・・・あ?」
「何歳だ、お前と……そこの、子。三つ編みのやつも、いたよな。カシュネ、っつってたか」
「…………」
「ぐっっゥ!!?」
トゥトゥはローヒールを別の傷口に根元まで突っ込み。
更にベルトにかけたナイフを指先で持ち、ロハザーの肩を刺した。




