「魔女と魔王の誓い」
「……割れたな。あの男の行動原理も、その源泉も。ホッとしたよ」
「……何の話だ?」
「バンターとかいう男の話。あの男も魔女狩りの犠牲者だというなら、その動機はもう疑う余地も無く復讐だろう。誰に対してかは知らんが、まあリシディア家じゃないか? 魔女を殺せと命令を出したのは王だからな」
「それは――」
〝ココウェル・ミファ・リシディアァァァ――――――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!!!!〟
「――間違いないと、思うが」
「だったら問題ない。ひとまず、あの男が私達の復讐の前に立ちはだかることはない。そうだろう?」
「や――それはそうかもしれんが、実際ここで俺とお前――」
「逃げるぞ」
「……逃げるぞ、圭。ここから私と共に」
「…………。な」
「奴は確かに『本物』だ。だからこそお前には早すぎる。見たんだろう? アヤメ・アリスティナを抑えたギリート・イグニトリオすらあっさり打ち負かす奴の力を。アルクスの半分を殺し、トルト・ザードチップでさえ足止めが精一杯という奴のデタラメな力を」
「見捨てるのか、この国を!」
――――リセルの目が、冷たく吊り上がる。
自分でも思いもよらない言葉が、口を衝いていた。
「……お前は何者だ?」
「!」
「お前は魔王、私は魔女。そう契約を交わしたのは力を求め、果てに復讐を成し遂げる為だろう?」
「……そうだ。でもだからこそ、手段を選ばずに力を付――」
「手段は選ばずとも相手は選べ。恐らく呪いの影響で力の入り切らなかった拳を合わせただけで、全身を内側からズタズタにされ動けなくなったんだぞ? 蟻が津波に勝負を挑むな」
「……生き物に例えることすらできないのか。バンターは」
「私は『無限の内乱』を戦った。その経験に照らしても、あのバンターとかいうバケモノはとんでもない実力者だよ。その豪運に感謝することだ――――呪いの共鳴とやらがなければ、お前は間違いなくただの肉片になっていた。肝が冷えるどころではなかったぞ」
「……そう、だろうな」
「いい機会だから言っておく。復讐を果たすため、何でもするというのなら――一分一秒でも生き永らえる意志を持て。いつか言っておくべきだと思っていたんだ、お前は――」
「……?」
「――『見捨てるのか』、と私に聞いたな」
何か露骨話を変え、リセルが続ける。
「見捨てるさ。当たり前だろう? 二十年……私は二十年耐え、生き延びてきたんだ。こんな所で、こんな私の復讐と何の関係も無い所ですべてを失ってたまるものか。――だから誓え、圭」
意志に光る強い目で、リセルが俺を見る。
「生き続けると。どんなことがあろうと、どんな障害が立ちはだかろうと――力を付けるまで、復讐を果たすまで私を置いて死なないと。我が目の前で宣言しろ、魔王よ」
「…………誓う。だから一つ教えてくれリセル、」
その目に、初めてリセルから強い復讐心を、感じた気がして。
俺はこんなことを、問うていた。
「お前の復讐の相手は、本当に俺と一緒なのか?」
リセルは。
人形のような顔で、「当然だ」と答えた。
「……逃走経路を準備する。治り次第ここを去る――――別れを惜しみたい相手が居れば、その間に済ませておけ」
そう言い残し、リセルはテントの外へ消えていった。




