「Ego ニンゲンという糞汚物へばりつく異世界」
「――――そ――――」
〝リシディアという、『魔女に王族を殺された』という傷を抱えた国が、その魔女が目の前に現れた時……一体どんな反応を見せると思う?〟
〝王都は焦土と化しました。――『再編』などという生易しいものではありません。リシディアは軍事力のほとんどを失っていたのです〟
――違和感は、感じていた。
魔女はリシディアのいち少数民族。教本でもそういう扱いだ。
血に混じるものは違えど、魔女とリシディア人は源流を辿れば同じ血を分けた人種であった筈だ。
民族紛争や強い国家が現れた結果、ある民族が一定の地に追い遣られた、というのは歴史でもよく聞く話。
だが今やこのリシディアに魔女の姿はどこにもなく、存在さえも許されない。
そして一度はこの広大なリシディア全土が焦土と化し、滅亡寸前まで衰退した。
ずっと疑問だった。
内乱の結果、いち民族が一人残らず滅亡させられる、なんてことがあるのかと。
ただの民族と国家の衝突で、ここまで戦火が広がるものかと。
だがリセルの話が。
この国全ての人間が「正義」でも「疑念」でもない、歯止めの利かない「欲望」の為だけに動いたというのが、「魔女狩り」の真実なのだとしたら――――
「――そんなことが、」
――そこに一体、どんな地獄が現れる?
「そんなことが人道的に、罷り通る訳が――」
「罷り通ったのさ。何の権限も無い、魔女ニ怒レルそこらの奴ら共でさえ『裁き』を執行できた」
「……無法者、」
「『魔女を皆殺しに』――――王による大号令を大義名分とした義勇兵様共は、適当な疑いを吹っかけて目につくすべての理性を破壊し尽くした。軍規にも理性にも縛られん火事場のハイエナ共が、そこで何をしたかなんぞ想像が付くだろう?」
「――――、」
「ここぞとばかりに、気に入らぬ者を殺し。ここぞとばかりに、普段できないことを全部やる。子どもと見れば悉く奪い、男と見れば悉く殺し、女と見れば悉く犯し――そして魔女と断じて証拠隠滅する。そんなことを畜生すべてが行う狂乱が、国中で起こったのさ」
――喉が鳴る。
黒々とした不快な感情が嚥下され、肚に溜まる。
だが――俺は漸く、リセルの目に映る闇の正体を理解したのだろう。
それは嘲笑だ。
それは軽蔑だ。
失望だ。
諦念だ。
侮蔑だ。
憐憫だ。
慟哭だ。
この世全ての、絶望だった。




