「見られた醜態、見えたのは水色シマモヨウ」
一応、肉体訓練の書籍……所謂ハウツー本に目を通して計画通り実行してはいるが、一体いつ頃、どんな風に体が変わってくるのか、見当もつかない。
武道でいう、技や型のような技術を教えてくれる者もいない――一度リセルに頼んでみようかとも思ったが、あまり一緒にいる場面を目撃されるのは好ましくないし、第一魔女のあの性格、もとい性癖は恐らく何度輪廻転生しても受け付けない――では、鍛錬が遅々として進まない可能性がある。
義勇兵コースの演習授業にも、未だ教官達から参加の許可は下りない。
魔法の力である程度は動けるのだから、参加しても良さそうなものだが、しっかりとした魔法の素地が無ければ、いかに肉体が傭兵レベルの動きに付いていけても駄目なのだという。
つまり目下、魔法の訓練がやっと軌道に乗ってきたような段階では、肉体訓練を本格的に始めることは出来ない、という訳だ。
だからといって、何もしないわけにはいくまい。
肉体は一度鍛錬を止めればすぐに負荷に応じた体へと進化する。悠長に何もしていなければ、いざ魔法の素地が認められたとして、――言っては何だが、萌やしのような体をひっさげて、訓練を積んだ義勇兵コースの面々と対等に動ける筈がない。それでは参加していないのと変わらない。
だからこそ、何をしていいか分からないというのが、何とも悩ましいのだ。
「じゅう、は……ちっ!! あァ――っ」
となれば、無知な俺はひとまず――こうして、黙々と筋トレに励むくらいしか、他に遣り様がない。
シュールな感じが否めない。俺は今、異世界にまで来てヒョロヒョロと腕立て伏せしてるのだ。
インターネットも存在しない異世界で、筋トレのやり方を地道に本で、貴重な時間をかけにかけて調べ上げる。なんとも釈然としない気持ちだ。
加えて俺の貧弱さと言ったら――――二十回で限界である。
「じゅ、う、く……っ!!」
頼むから多少なりとも、魔法を交えた戦いの助けになって欲しい。
「に、じゅ……っ、っ、……うっ!!!」
義勇兵コースの奴には一目たりとも見られたくないものだ、こんな醜態を。
「っあ、っは――――は、はぁ、ハァ――――」
自重から解放された腕が痙攣を繰り返す。そんな体たらくにウンザリしながら、休憩もそこそこに、生まれたての小鹿のように四肢を震わせて立ち、
……眼前には、健康的な少女のふとももがあった。
「ッ?!!」
「………………………………」




