「第2の生還者」
「……ああ。学生にも結構な死者が出てる。行方不明者も多い。捜索に人員を割く必要もある。お前の知り合いもいるかもな」
「ココウェルは!? リリスティアという名前の奴は――」
「そいつは生きてる、王女は知らん。行方不明で現在捜索中だ」
「……最悪だな。状況は」
「ハッ、何が最悪だ。お前も私も生きている。私達の目的は潰えていない。それだけで十分じゃないか」
「――何を、」
「それ以上……いや? それ以外何か望みがあるのか? お前には」
魔女の目が闇を帯びる。
何故かその目に戸惑いを覚え、俺は一度瞬きした。
「……悪い。まだ頭が完全じゃないみたいだ」
「そのようだな。まあ、歩けるようになるまでもう少しかかる。精々安静にしておくことだ――――聞きたいことは別にあることだしな」
「? 聞きたいこと――っ、」
横たわる俺にまたがり、リセルが顔を寄せてくる。
あくまで真剣な彼女の目に、面食らう俺が映り込んだ。
「〝契約〟を通して伝わってきた。思わず叫びそうになるほどの狂おしさ――――狂気が」
「…………」
「だが、私はそれを前にも感じたことがある……ナイセスト・ティアルバーの『痛みの呪い』に、お前が貫かれた時の感覚だよ」
「…………やはりそう、感じたか」
「答えろ圭。あの男は――――」
「……そうだろうと思う。あの大男…………バンター・マッシュハイルは、『痛みの呪い』に冒されている」
「……とんでもないことだぞ。お前に続き、第二の呪いからの生還者というわけだ。この二十年で一例さえ報告されなかった生還者がこの短期間に二例目? ハッ……分かるか? これが世間的にどれほど衝撃の事実か」
……生還者、なのか。俺もあいつも。
「…………知らねえよ」
あんな途方もない力を発揮できる奴と、
こんなどうしようもない状態の俺が、同じ言葉で語られる存在なのか?
「知りたくもねえ」
ああ、神よ。
なんでお前という奴は、俺のことばかりを邪険にし続ける?
「……お前は奴の名を知っている。律儀に名乗りあったわけでもあるまい――――一体何があった?」
「解らん。ただ俺は……奴を視た。そして多分、」
〝――――バンター・マッシュハイル〟
〝――――天瀬圭〟
「奴も、俺を視た」
「何?」
「俺達は互いを識った。奴と拳を打ち合わせたとき、何かが作用して俺達を――そう、『共鳴』させたんだ」
「……共鳴……具体的には何を見た?」
「俺とバンターは……恐らくお互いの、痛みの呪いが想起させるトラウマを垣間見た、んだろうと思う――――」
〝生きてきた中で最も心を病んだ出来事を呼び起こされて、永続的・誇張的に見せ続けられてしまう〟
「――死んでいた。あいつに親しい人間が、誰かに村ごと惨殺されていた」
「お前の過去を見た――では私達の関係も奴には、」
「それは……ないだろうと思う。俺達が互いに知ったのは互いの……源泉だけだろうから」
バンターは痛みの呪いを受けていた。
赤銅の髑髏に、その身を貫かれていた。
その状態で生き永らえているのであれば――あいつもあの狂気の暴風を、一度や二度でなく体験しているはずだ。
だがそんなことがあり得るのか?
痛みの呪いに蝕まれていながら――アルクスを、ギリートを次々に打ち破り、あまつさえ今トルトを相手にして一時間以上も、平然と戦っていると?




