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「救命の医師と命の恩ババア」




◆    ◆




 ズシン、と脳が揺れ。

 俺の意識は覚醒かくせいした。



 なんだろう。

 なにやら体全体を温かさが包んで――――



「あッハまーーーーーーーーーァ起きたーーーーーーーァ!!!」

「ぼばがぁぁぁあぁぁあああ!??!?!???」



――――ババアの、濃い顔が、ぐにゃぐにゃに、なりながら、俺を見ていた。

 どわあああ、なんてギャグみたいな声が出た。



「ぶぼ……ぉぼ、!?」



 いや、出そうとした。

 だが口を開けた途端とたん声は気泡きほうとなって消え、目に口に、あらゆる穴から水が入り込んでくる。

 思いっきり気管きかんに入り込んだ水にせ、口が開いてしまう。そのたびに水が入り込んでくる。

 起きた瞬間溺死(できし)の危機だった。



「あッハまーァ! 体の中にまでアタシを取り込みたいだなんて情熱的だこと!!」

「……のんきにからかってないで出してあげてください、ヴァサマン先生」



 いよいよ肺が水で満たされる――そう死を目前に意識したとき、ようやく水泡は割れ。

 俺は水浸みずびたしのまま、硬い床の上に敷いてある薄っぺらい布の上に投げ出された。



「がは、ぼほ、ぐぼ……げっ、カァッ、あ、えほぉ゛っ」

「なァにいつまでも溺れてたつもりでいんのさ、まーァ。おらこっち見なさいぼーやっっ!」

「ぢっ?!」

「さっきまで溺れてた子を叩くのやめてください。――君、ええと……アマセ君、だったかな。大丈夫だよ、ホラ……もう水は消えてる(・・・・)

「!――」



 ――その通りだった。

 頭をひっぱたかれて、急に意識が現実を認める。

 俺の内外を満たしていたはずの水は綺麗きれいさっぱり消え失せ――そこには肺を酷使こくしさせ、ありもしない肺の水を吐き出そうと一人空咳(からぜき)を繰り返す俺がいるだけだった。



「アタシの魔法で治療中だったのよーォ。意識が戻ったってことは、もう足も体もすっかり治ってると思うわァっハー!」

「一応、体を検査させてくれ。君の負傷は足の粉砕骨折ふんさいこっせつと、体内各部の破裂及び損傷そんしょう……だったかな」



 見覚えの無い、白衣を着た初老の男はそう言うと、白髪の入り混じった髪をかき上げて俺を布の上に寝かせる。

 隣の何やら笑い続けている赤縁あかぶち眼鏡めがねのやたらスタイルのいい長身のババアと違い、多少はマトモに話せるようだ。

 何者だこいつら。面識はあったか?

 そもそも俺はここで一体――



 ――――――――――――。



「うわっ!? な、なんだ急に、はなしなさい――」

「ギリート・イグニトリオはどこだ!!!!? あいつは今――」

「傷口開くわよ。いいから少し落ち着いて現状を把握なさい」

「ッ!!」



 テントの入り口を手でめくり――そう、ここがどうやらテントらしいことに今気付いた――、現れたのは魔女まじょリセルだった。



「――――パーチェ、先生か」

「上出来ね。私が分かるなら、ここがどこで、今皆がどういう状況か、あなたなら察しがつくはずよ」

「…………」



 周囲を見回す。


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