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「果て見えし趨勢」

 大木が飛ぶ。



 はるか空高く舞い上がり、やがて力無く落ちてきた大木は――――みきはさんで拮抗きっこうした拳と拳により、真っ二つに打ち砕かれた。



 魔波と空気の衝撃が、王都外縁の森を伝う。

 もう何度目とも知れない波紋の様に広がったそれは木々を外へと押し出すようにきしませ続け、近隣にはもはや動物の一匹さえ存在しない。



 トルト・ザードチップと。



「……弱まってきたな。拳の力」



 褐色かっしょくの大男は、木くずの中で一瞬をにらみあう。



「ッッ……っア!!」



 バンターがトルトと合わせた拳を解放、彼の拳をつかみもう片手で腹部に一撃を、



「ワンアクションせェ」

「っッ、 ッ、!」



 見舞う前にトルトがつかまれた拳を肩の上へふりかぶるようにして引き、目一杯めいっぱいしばった足で勢いをつけたもう片拳かたこぶしで腹部を重撃じゅうげき

大男を空へ打ち上げた。



「ぐあァ――――ッッ!」



空で折られた大木に激突、木を割り砕きながら幹にそって吹き飛んでいく大男。

葉と木片もくへんの雨の中、トルトは瞬転(ラピド)で一息に空を駆け上っていく。



 緑覆う葉の茂みから現れた大男は、既になぐりかかる体勢。



「まだやるかい」



 無手の応酬おうしゅうが空に木の葉を散らす。

 瞬転(ラピド)、応じ大男も空を蹴りぶ。

 共に相手を翻弄ほんろうし合いながら、空気さえ逃れられない速度と威力の拳を、蹴りをぶつけ合う。

 いつしか大木は文字通り微塵みじんとなり、鋭い雨のように森林を打った。



「スピードも落ちてきた」

「ァァァァ――ッッ!!」



 一瞬に交わされる十合の格闘けんげき、トルトの首根くびねをつかみ上げひねり潰す大男の前にひじおくの内側を蹴り上げそれを脱するトルト。



 大男の拳がトルトの腹部を貫き。


 

 トルトの拳が大男のひたいをかち割った。



 風切かざきり、轟音ごうおん

 吹き飛ぶ小枝、倒れる大木。



 土塊どかいちゅうを舞い、土砂崩どしゃくずれかと見紛うほどの土埃つちぼこりが木々の背を越えて打ち上がり落下する。

 


 トルトは大地を割り砕いて着地し。



 大男は大地を割り砕き、地に叩き付けられた。



「お~っ、足がシビれやがらァ。げほ」

「ッッ……!!!」

「……痛みの呪いだな。その症状(・・)

「!?」

「ついこないだったばかりなのよ。お前さんみたいな苦しみ方をするガキとね」

「!」



〝――――バンター・マッシュハイル〟

〝――――天瀬あませけい



「……俺のような、餓鬼がき

「うお!? 何かしゃべったか?」

「…………」

「……んだよ、やっと口が動いたかと思えば見間違えかよ。案外俺もガタきてんのかもな体に…………ま、ガタというならお前さんが先だろうがな」



〝兄さん〟



「ッッッ!!!!!!!???!?」



 大男のこめかみで血管がミミズのようにうごめき、立ち上がりかけていた大男は目を見開いてうめきながら地に両膝りょうひざを着く。

 どれもこれも、トルトには見覚えがある仕草だった。



「そんだけ呪いにむしばまれながら心身を極限まできたえ上げた、大したもんだ。だが……もうそう長く動けねぇだろ、お前さん。勝敗は決まったろうよ。ここいらで降参しちゃくれねぇか」

「…………」


      (死死死黙れだまれ)

「黙れッッ……黙っていろッ!」

「…………やっと聞こえた言葉が『黙れ』たァな。悲しいじゃねえの」



 自分にかけられた言葉だと誤認し、トルトは拳を構えて地を蹴った。




◆    ◆




 ズシン、と脳が揺れ。

 俺の意識は覚醒かくせいした。



 なんだろう。

 なにやら体全体を温かさが包んで――――


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