「だから彼らは全滅した。」
ボロボロの白いワンピースに、ほつれの目立つ茶髪の三つ編みを二振り、肩下で揺らす少女。
その素足は土の汚れと小さな傷だらけで、痛々しい色をした血が固まってこびりついている。
自身の兄弟姉妹と変わらないように見える幼き少女に、ロハザーはとても冷静ではいられなかった。
「どういうことなんだよ……クソッ、住民には危害を加えてねーんじゃなかったのかペルドッ!」
「ロハザー、落ち着いて。ペルドのせいじゃないこと、分かってるはず」
「分かってるよ! クソッ……外道共め、とんでもねーことを……なぁケネディ先生、俺」
「見捨てて行けねぇってんだろ? いいぜ、付き添ってけよ。どんな傷を負ってるかわからねぇ以上、学園区にできてるっていう救護施設に運んどいた方がいいだろうからな――アルクスよ。周囲の索敵はどうなんだ?」
「――今終えた所です。敵殲滅率二割、捕縛率七割。残存勢力一割以下を、今アルクスで追撃しています。褐色の大男などの、余程のイレギュラーが出ない限り不測はないかと」
「イレギュラーね……ザードチップはあんなバケモンまだ一人で抑えてんのかね。今にも目の前に現れそうで生きた心地がしねえな」
「ええ。念のため、手練れを護衛に付けた方がよいでしょう」
「ですがマーズホーン先生、戦力の分散は……」
「王城方面に行くのは、ちょいとよした方がいいかもな。まずは商業区に出て、ガイツの奴らと合流した方がいいんじゃねえのか」
「いや、そんな話になるんだったら俺一人で行きます。雷光の憑代使って雷速で進めば、そうそう捕まること
も、」
詰まる、ロハザーの声。
無事救助できた少女に安堵し、誰もが次へ目を向けロハザーから目を逸らした一瞬。
その一瞬を、一割以下の残存勢力は見逃さなかった。
『!!?』
「なっ……、、 、あ、」
「動くな」
意識の隙を突き、抱き着いていたロハザーに逆手でナイフを突き刺し、彼の背後に回り込んだ三つ編みの少女。
そこに恐怖におびえた少女の面影など影も形も無く、ただ冷たく鋭くプレジア勢を睨み付ける眼光が宿るのみ。
距離にしてたった数歩。
瞬きの間さえあれば逆転できる絶望的な距離に、プレジア勢は残らず縫い付けられる一瞬前にヴィエルナが音も無く駆け少女はそれを予見していたかのようにナイフを抜いてまた刺した刺した刺した。
「ッ!」
『!!!!』
「ぐ、ぁがッッ……!!?」
「『動くな』っつったでしょ聞こえなかった? あんまり舐めたことしないで」
ヴィエルナの眼前で、既に四か所を刺し貫かれたロハザーの腹部が朱一色に染まっていく。
彼女はそれを見ていることしかできない、否、
「下がれ」
「っ、」
「下がれっつってんのよ!!」
血染めの友を前に、歯噛みして下がることしかできない。
「何うろたえてんだバーカ。魔術師がこの程度で死ぬかよ」
「ちょろいもんでしたね。あねさま」
路地を挟む壁に緑の光が走る。
『!!?』
目を見開くプレジア勢の前に、まるで壁から浮き出たかのように二人の少女が現れた。
「揃いも揃ってバカヅラぶらさげやがって。仲間守って全滅してちゃ世話ねーってのによ」
三人の中で最も背の高い、耳や鼻、口などいたるところにあるピアスが真っ先に目につく黒い服の少女がプレジア勢を嘲笑う。
服は片腕と片足が露出している奇抜な装いで、片方の側頭と後ろ髪が刈り上げられており、アシンメトリーな前髪は右側だけが長く、片目は闇に覆い隠されている。
「ぬくぬくいきてる人たち。げんじつ見えていないのですかね」
背の低い、枝毛の多い灰色の髪を足首の位置で揺らしているつぎはぎのワンピースを着た少女が、応じ抑揚の少ない声で言う。
余りにも不揃いな、たった三人の年端もいかない少女。
しかしその少女達が――
「もう全滅したのよ? あなた達」
――たった今、自分たちを全滅させた相手なのだと、プレジア勢はゆっくりと絶望していった。




