「少女保護」
「はい。我々西側の班は負傷者を退避後も進軍を続け、残りは商業区と王城区へつながる通路のみとなりました。これから闇の不活性化にやられた者だけは、」
「ええ、私が治療にあたりましょう。不活性化治療に必要な光の魔力は、なかなか加減が難しいですからね」
「お願いします」
「さてと。そちらはどうです、ケネディ先生』
『ん? ああ、マーズホーン先生。ちょうど今連絡があったとこです。東側もほぼ制圧完了。俺ら中央を進んでた班もデカいのは粗方片付けて、後は恐らくザコだけです。敵の動きが急に鈍くなりやがったもんで』
「指揮官を失った、ということでしょうかね。ですが引き続き警戒は怠らないように」
「もちろん。合流しますか?」
「ええ。商業区通路で落ち合い、現状をしっかり共有しましょう」
◆ ◆
「……何だコリャ。ここだけエラい壊されてんな」
居住区の端、商業区や王城区へ続く三叉の通路へとたどり着いたファレンガスは、先までと打って変わったその〝荒廃ぶり〟に唖然とすることになる。
住居らしきものが並んでいたこれまでの通りと異なり、シャッターの目立つ背の高く太い建物が並び、一番奥には通路をアーチ状に囲う、最も損壊した建造物。
崩れた建物はいまだに小規模な崩落音を響かせ、砂粒のようになった瓦礫が風に漂っていた。
「ここ、だったんじゃないすかね。治安部隊とあの大男が戦った場所」
「ふむ。まあ何にせよ、戦闘があったのは確かなようですね。ここは居住区の中で唯一、住居のないところのようですし」
「だな。たぶん倉庫……で、あの奥に見えるのが治安部隊とやらの屯所か」
集結したロハザー、ペルド、ファレンガスがめいめいに所見を口にする。
アドリーはアルクスと目配せし、そろりそろりと隊を進めていく。
崩落音が、響いた。
『!!!』
全員が音のした方へ、または音とは違う方向へ警戒を展開する。
荒廃した空気。殺伐とした視界の狭くなりがちな場所――いずれも奇襲にもってこいの環境だ。
崩落により生じたのはごく小規模な砂煙。ごく微量ながら魔波。
拳を握りしめ、ロハザーが目を凝らし――――そして次の瞬間、その目を大きく見開いた。
砂煙の向こうで、小柄な少女が身を守る様にしてこちらを睨みつけていたからだ。
「――――子ども、」
「――要救護者のようですね」
空気が一気に弛緩する。
ロハザーを先頭に、幾人かのアルクス・義勇兵が少女へと近づいた。
「ひ、ぃっ……!!」
「待て。――コワいよな、今まで必死でかくれてたのに見つかっちまったんだもんな。大丈夫、近寄らねえから――――ほら。こっちをよく見ろ」
前後不覚なままに、とにかくがむしゃらに逃げようともがく少女を前にロハザーは歩みを止め、片膝立ちをしながら両手を小さく広げ、少女を見つめる。
肩を震わせ、荒い呼吸をしていた少女はようやくロハザーの姿を視界に認めたようで、瞳から恐怖の色を薄れさせていく。
「大丈夫だ、落ち着け。俺達は味方だ、助けに来たんだ。もう安心だぞ」
「たす、け……助けに?」
「そうだ。もう逃げなくていい。周りの人もみんな味方だ。お前は助かったんだぞ」
「助、か――――あぁ、ぁぁああっ……」
表情を崩し、少女がロハザーにしがみついた。
その頭をなでながら致命的な傷がないことを確かめて、ロハザーは大きく大きく息を吐いた。
「オウ、具合はどうだ? 王女ちゃんじゃねーのか?」




