「ファレンガス・ケネディ&アドリー・マーズホーン」
雷精化眼鏡が雷速移動で土精化中年を翻弄する。
岩の鎧に覆われたファレンガスは移動速度こそ変わらないものの――雷速についていける速力も動体視力も持ち合わせない。
故に撃たれる。
超速で動き、一撃離脱を繰り返す雷精に打たれるままになる――――
「せ――先生ッ!」
「ツハハハッ、どしたどしたジジイッ……そんなもんかッ!?」
雷光に混じり。
闇に打ち消される光が、空気にチリと消えていく。
「くっ……」
「どうしたの? もっと楽しませてちょうだいよ――光を相手取るのは久しぶりなのだから!」
見開いた目を更に血走らせ、魔波に長髪を乱れさせながら女が嗤う。
アドリーの放つ光の波動は黒き濁流に徐々に押し削られ、その勢いを減じていく。
アドリーもそれに合わせ後退し続けている。
「終わりだぜ、オッサン――!!」
「さあ、もう終わりなの――!?」
だな」
『そろそろ
ですか」
『!!?』
「雷猟」の鎧が四肢から崩壊し。
「黒花」の足元から、暗色の蔦が立ち昇る。
「殴り続けてりゃどうにかなるとでも思ったのか? ヌルいヌルい――――そんなヤワな体術じゃ俺の鎧は砕けねえッ!」
「ッ、クソジジ――――ィべ、ぇ?!??!」
先行放電を読み取ったファレンガスの岩石パンチが「雷猟」の顔面を捉え、吹き飛ばす。
「バーカ。どんだけ速かろうが行く先がわかってりゃカウンターし放題なんだよ!」
「て、めェ――――!!!」
「そら早く立て直せ。でねーと――今度はテメーがサンドバッグだぞ!」
「ぶぎゃ、が、ぼ、お゛ど、がぅべ――――!!??!」
防戦一転、四肢にだけ効率的に岩の鎧をまとったファレンガスが「雷猟」を追い打つ。
己の一撃とは比べ物にならぬほどの重撃が、「雷猟」の身体を余すところなく蹂躙していく――――
(何モンなんだよこのオッサンは――ただのガッコの先公だろッッ!???!)
「ずっ……がァ!!」
街路に落ち、地面を砕き割りながら吹き飛んでいた「雷猟」が瞬時に体勢を立て直し、ファレンガスの顎に一撃する。
さすがに怯んだ茶色の男の隙を逃さず瞬転空、「雷猟」が大きく距離を取り――――
――――視認も出来ない真下から突き出た街路の拳に背を貫かれ、天へ吹き飛ぶ。
「が、ぁ――――!!!?」
「必殺、」
力無く空中で一回転した「雷猟」。
雷光の憑代が完全に崩壊した生身の身体で、彼は、
「――ド、畜生が、」
天高く伸びる岩の腕から枝分かれ自分に迫る、大量の岩の拳を呆然と眺めた。
「――――土竜の行軍!!!」
全身殴打。
岩の拳が砕けるほどの衝撃を百発身に浴び、「雷猟」は地に墜落した。
「……今の音は……っ」
「向こうも片付いた、ようですね。まったく、『必殺』だなんだと騒ぎ過ぎですよ。近所迷惑な』
『なんて連絡をする余裕があるってことは……そちらも?』
「ええ。今終わるところです」
アドリーの目の前。
そこには闇をすっかり吸収して成長した謎の植物と――――今まさにその植物の蔦に絡めとられ動けなくなってきている、「黒花」の姿。
「暗所で微量に生み出される闇の魔力を吸収し、成長する植物です。それを少々改良してもらい、闇属性に対抗できる植物として品種改良してみました」
「馬鹿な……そんな植物の話なんて聞いたことが」
「ないでしょうね。試作段階で私しか持っていませんから」
「……だとしてもいつの間にッ……」
「最初に。めくれた床の石材の下へ、つま先で種を埋め込みました」
「……!! あのとき、」
「光の魔法と、私の劣勢の演技に上手く注意を引き付けられてホッとしましたよ。さて――」
「ッ!?ァ――ぁあアアアッ!!!?」
「!――おやおや、」
ビクン、と女が背中を逸らして野太い悲鳴を上げ始める。
アドリーがその細目を開き、怜悧な瞳をのぞかせた。
「改良は成功のようですね。まさか術者に侵入してまで闇の魔力を吸い取ろうとするとは」
「あ、が、が……あああああああっ!!!」
「――ではさよならです。『黒花』さん」
差し伸べるように、「黒花」に手を向け。
魔術師は、光弾の砲手の連弾を闇の魔術師へ打ち込んだ。
「ぎ――ァ、ギャ、えケ゜ッッ!!!!!」
――光に枯れ逝く植物の蔦に、絡み付かれたまま。
光属性の魔力回路活性化による高負荷で全身の魔力回路を破裂させられ、「黒花」は血塗れになりながら事切れていった。
「……惨い殺し方を、なさるのですね」
「戦争中ですよ。ペルド君」
返り血を拭いながら、普段と変わらぬ穏やかさでアドリー。
静かに生唾を飲み込み、ペルドは「すみません」と謝罪した。
「状況は?」




