「居住区の戦い――⑥」
はずだった。
「――――ァ?」
総髪の男の疑問の声。
眼鏡の奥にある三白眼を見開き、蹴り込んだ足の違和感を察知し――――とっさに大きく距離を取る。
「……? 先生、」
「――ここは俺に預けろロハザー、力温存しとけ。お前らじゃ長期戦になる」
「な……」
男がつま先を視認する。
雷精化により作られた雷の鎧は、つま先からほつれ崩れ。
腹部から岩を発生させていたファレンガスが、自立泥人形の如く岩に覆われていく。
「ンだよ若造。土属性と戦うのは初めてかぁ!?」
「――チッッ、こいつがターリャの言ってた土精化できる魔術師かよ――――!!」
――――その靴先の触れた地面から突き出た光の波動が、ペルドを飲み込まんとした闇の濁流を残らず遮る。
『!!?』
「……」
「申し訳ない。遅くなりました」
上空からペルドの前に降り立つ長身の男はアドリー・マーズホーン。
光属性を自在に操る、プレジア唯一の魔術師。
「気を付けてください先生っ、奴の闇は何か、」
「ええ、随分独特な形状をした首根断つ魔宴だ――――何か特別な創生淵源をお持ちなのかな」
「……光の……」
宿敵を前に。
闇の魔術師は、背後の暗黒を一気に膨れ上がらせる。
「マーズホーン先生! 援護を」
「下がっていてください。アルクスの皆さんは不活性化にやられた方々の把握・退避をお願いします。この女性は私が、」
闇の濁流に。
光の奔流は、真正面から拮抗した。
「一人で抑えます」
(……無詠唱であれだけの質量の光を……!!)
「呆けるなペルド、急げッ!」
「ッ――先生、ご無事で」
「心配無用。急いで」
「はい!」
アルクスとペルドが去り。
アドリーはようやく、苦戦に顔を歪ませた。
「――愚かね。魔力量に自信が無いのに応用属性なんて」
闇の泥の向こう、ドレスハットの下で女は口を笑みに歪ませる。
「光は闇に強く、同時に最も闇に弱い。そんなこともご存じなくて? 学校の先生は」
「存じてますよ。勝敗は――――互いの魔力量にかかっているとね」
「――だとすれば、もっと敵を知っておくべきだったわ」
「存じてますよ」
「! へえ」
不遜に笑う黒の女に、アドリーも苦笑を返す。
「手配レベルA、『黒花』。十数年前のゲルンクロド研究所事件の首謀者一味の一人」
「――久しぶりね。表の住人にその名を呼ばれるのも……!」
「手配レベルA、『雷猟』だな。今になってオメーの名を聞くとはな」
「ッハハァ! 何だ――表にまだ俺の名前なんぞ覚えてるヤローがいたのか!」




