「居住区の戦い――⑤」
『こちらペルド・リブス。敵が住居に侵入した形跡は、今の所ありません』
「なるほど。少しは人道もわきまえているわけですね。では引き続き、住民の安全と殿下の捜索に注力してください。戦闘に不測は起こっていませんか?」
『大丈夫です。捜索を続けます』
「お願いします。――さて。彼らに何も起こらぬ限り――我々はここから敵を駆逐すればよいだけですね」
切れ長の目を開け、新手の敵にアドリーが笑う。
その不敵な笑みと魔波に、気圧され動きを止める者、
「ビビってる場合か。ボケ共」
止めない者。
「ロハザー!」
「はい」
対象の肉体に常時無限に走る電気信号を瞬間的・絶対的に遮断するロハザー・ハイエイトの魔術、雷毒が視認できぬ速度で飛び――敵に着弾。
敵は、ちょっとピリッとした。
「何かしたか? 今」
『!!』
先行放電。
ロハザーとファレンガスの背後で、雷精化した眼鏡の総髪が嘲笑を浮かべる。
(こいつ――俺と同じ雷属性の所有属性、)
(障壁――いや間に合わねえッ!)
「ヒャオ!!!」
閃電と共に。
雷速の蹴りが――――ロハザーをかばったファレンガスの腹部に叩き込まれる。
「ッしモロ入ったァ!」
「先生ッ!!」
――雷光に混じり。
風に乗るのは、闇の残滓。
「ぐあっ、ァ――――っ!!?」
「ッ!?」
「イカン、進行停止ッ!!」
この日天でも闇に覆われる狭い路地裏から突如現れた暗黒の津波に飲み込まれ――学生が地に倒れる。
ペルドが放った火弾の砲手によって注意を逸らされた敵の隙を突き学生は間一髪、アルクスによって闇から引き揚げられた。
ペルドはアルクスらと共に大きく後退し――――闇より出でた人物を認識する。
女はその闇溜まりから這い出てきたかのように真っ黒な出で立ちで――――髪や指先、袖から滴る闇を手掌で操作、ペルドらへ再度襲い掛かる。
(闇属性の使い手――一撃喰らえば魔力回路の不活性化!)
「総員障壁ッ!!」
アルクスの声と共に、全員が魔法障壁を展開。
液状に見える闇は残らず障壁に張り付き覆い尽くし――――間もなく障壁を溶かし始める。
それだけの時間があれば十分だった。
『よし――やれペルドッ』
「はい」
敵の攻撃により生じた障壁の暗幕を利用し、先の火弾の砲手により生じた火炎、闇の女のすぐ背後へと転移したペルドが――――音も無く光弾の砲手を放つ。
(一撃当てれば高負荷による回路破裂――――)
光の弾丸は。
敵の正面に放たれたため、あっさり防がれた。
「な!!?」
「!?――――いや、なんてこった、あいつ最初から俺達に背を向けてやがったのか」
体の向きを誤認してしまうほどの闇の衣に覆われた、光沢のある黒のドレスハットを目深にかぶった女。
背後と同じく、胸のあたりまで垂れ下がった前髪の裂け目から――――あまりの想定外に動きを止めたペルドを血走った目が射貫く。
それが合図。
ペルド・リブスは、一瞬にして闇の洪水に飲み込まれた。




