「居住区の戦い――④」
「クソッ!」
無造作に放たれた拳。
その腕に、星色のローブが絡まり――肩と腕を可動域の逆へ、ズラす。
「ごぉあああぁっ!!? いでででいて、いて、は、はずれっ、肩かたぁッ」
「なんなんだこいつべぎゃ!」
「ぐあっ!?」
「ゲッ」
「ど、ぅぼ!! は、鼻が……!!!!」
悪漢の頭上を海を駆ける如く渡り、ただ一撃ひと動作で痛撃を加え、地に沈めていく。
そんなヴィエルナ・キースを、ファレンガス・ケネディは口笛を吹きながら見つめていた。
「うっひょー……ほぼ一撃だな。さすがウチの学生、戦闘レベルじゃその辺のごろつき共や一般兵なんぞ相手にならんな。ティアルバーの野郎にやられたダメージもあるだろうに」
「ナイセスト・ティアルバーを追い詰めた実力はダテじゃねえっすよ」
屋上から降りてきたロハザーが応じる。
「お、追い詰められてた奴じゃねーか。生きてたか」
「見てたんなら手伝ってくださいよ」
「ナマ言ってんじゃねぇキースと同じグレーローブのくせに。テメーなんぞより見てなきゃならねえ奴は山ほどいんだよ」
「そっすか。ならいいっす。俺タイマンじゃ負けませんからね、今回はっ!」
「ッ!!? う、あれ、」
「そらよッ!」
死角から迫った敵を魔波で感知したロハザーが紫電で敵の足を一瞬機能停止させ、振り返りながら拳を振りかぶったファレンガスが顔面を打ち抜く。
拳の前面だけ岩で強化された即席ナックルダスターに鼻を陥没させられ、男は吹き飛んでのびた。
「雷毒も快調だな。ノーモーションで撃てるようになってやがったな、そういえば。まァそのぐらいじゃねーと使いモンにゃならねえか、実戦じゃ」
「案外まだ不安定なんすけどね。でも……今は失敗する気がしねぇっす」
「ほォん。やけに気合入ってんな」
「ったり前っすよ。俺はまだ国を諦めてねぇ。それに――家族の無事だって確認しなきゃなんねぇんすから」
「戦意折れず、か。はは――さすがは俺の教え子だッ!」
「うっ!?」
「ッ!?足が――」
「ザコ共が、あの大男さえいなきゃ――テメーらなんぞ敵じゃねーんだよッ!!」
一撃一撃が地を揺らすほどの衝撃を持つ拳。
ファレンガスの長身から放たれる腰の入った打撃は確実に標的へ損傷を与え、命は奪わずとも再起不能に追いやっていく。
閃光が一瞬、空間を覆った。
「ッ?!」
「う、ぁ……!?」
「ハイ皆さん。あとは頼みます」
『はいっ!』
グレーローブ以下の義勇兵らが立ち止まった敵へと襲い掛かり、一人ひとり確実に沈めていく。
彼らの頭上を影が覆った。
『!!?』
「先生っ上ッ――」
「慌てない」
長身の男が空へ指を弾き、一発の光弾を放つ。
「はははっ! 馬鹿が、俺達が障壁も使えねぇとナメやがったな……!」
「大体一発の魔弾の砲手じゃこの数倒せねーよハーゲ――」
光弾がはじけ。
光が、悪漢らの目を殺す。
『うぉああぁぁぁああっっ!!?』
「しまっ、魔弾の砲手じゃねぇ閃光弾――!!!」
「ハイ皆さん。後は頼みます」
先と全く変わらぬ落ち着きようのまま、アドリー・マーズホーンは義勇兵らに指示を下しつつかなめの御声を開く。
「そちらはどうかな。ペルド君」




