「居住区の戦い――③」
ロングコートで口元までを覆った長髪の男は、小さな鋼の鎖でつながれたククリ刀を再度上から振りかぶり――また刀を取り落とす。
(見ましたよ――今確実に)
視線の先。
何一つ見逃すまいと目を凝らしていた剣士の視界を一瞬横切った紫電。
(あれがアレですか。つまりそういう魔術――ということなら、)
鎖を左手でつかみ、背後に落ちかけた刀を投擲。
無論放たれた小さな紫電を男は――――魔法障壁で防いだ。
「!」
「正解(そしてこの十五秒足らず、勝負――!)」
感覚の戻った右手で腰の暗器を取り出し、放つ。
放たれた針はロハザーが刀を避けた先に真っ直ぐ飛び――――展開された二枚の障壁 の一枚目に防がれた。
「二枚使いましたか。もう後ないですね」
「ほーお。こっちのハリは物理で防げんだな」
瞬転、そして瞬転。
体を傾けながら飛んだ先の壁を足場に方向転換、剣士へと真っ直ぐに飛ぶロハザー。
「!」
同時展開された魔法障壁により、ククリの刃は彼に届かない。
(十五秒無敵は相手も同じこと……勝負は、)
「どらぁッ!!」
「ぐっ!(十五秒後の、一瞬か――!)」
細目の男がとっさに展開した物理障壁にロハザーが激突。
障壁同士の押し合いに瞬転の分力負けした男が吹き飛び、球形の障壁によって地を転がる。
「おらおらおらおらッ!」
「ぬ、お、う……!」
絶え間なく続く障壁でのひと押し。
男は押され障壁の中を転がり続け――――やがて見えてくるのは、屋上の縁。
(十、十一、いや落とされる――こやつ、十五秒を待たずして障壁を破壊する気か……!)
「これでッ……!」
「チィッ!!」
男が鎖をたぐり寄せる。
ロハザーの背後から舞い戻るククリ刀に、男は空で大きな弧を描かせ――――向かってくるロハザーの足元に突き刺し、障壁をつまづかせた。
「ぬぉっ!!?」
(十三、十四……!)
ロハザーを物理障壁ごと跳ね上げたククリ刀を再度上空に跳ね上げ――首を断たんと構え腕を振り抜く。
(十五……障壁消えたり!! 死n――――」
――振り抜いた、はずだった。
「忘れたかよ?」
背後に落ちていくククリ刀。
目の前を横切る力を失った右手。
跳ね上がりつんのめり、そして今男の障壁の上を転がっていくロハザー。
背後から紫電。
「テメーは……魔法障壁だけは俺より先に展開してただろうが!」
「――――時間切れは、こちらか」
ククリ刀が、地に落ちると共に。
雷の波動に貫かれた男も、静かに地へと伏した。
『うぉぉおおおおおぉっ!??!』
「たった一人のガキだろ、やれやれやれ! 行け、下がるな、オイッ!」
「だっだってこのガキ格闘ハンパね――――げごぐっ!??!?」




