「増えた結び目」
「……それは指揮権を預けていただける、ということでしょうか?」
「先の襲撃で、こちらは随分数を減らしました。数が多い方の頭が指揮を執る、その方が機動力が上がるのでしょう?」
「……分かりました。ありがとうございます」
「み、みんなと合流しましょうよ!」
サイファスの制止を脱したマリスタが再度、声を上げる。
「これだけ少なくなっちゃったんですよ!? 敵の数の方が多くなっちゃったかもしれないのに――」
「そしてまた大男のような実力者に叩かれるのか。皆揃って?」
「っ――」
「今すべきことをしろ。お前はとにかく休むんだ」
「そ、そんな――」
「お前が守りたいものは何だ? マリスタ・アルテアス」
「――わ、私は。ココウェルを守りたいっ! 助けたい!!」
「だからこそ今は休め。それがお前がすべきことだ」
「っ…………分かりました。魔術師長さん!」
「な、何かしら?」
「さっきはごめんなさい。私も言い過ぎました」
「!?…………その通りですわ」
ぺこり、と一礼し、マリスタはサイファスに寄りかかりながら、簡易的に設けられたテントへといざなわれていく。
ガイツは破れたローブのフードを被り、かなめの御声を開く。
「聞こえるか、ボルテール兵士長。――これより作戦を再開する」
「え――」
「……」
「人数はそちらの方が多い。少数精鋭で別動隊を組織し、区域制圧、ならびに王女捜索を居住区に出してくれ。他は当初の予定通り、城を目指しつつ王女を捜索だ。我々は商業区へ進行、王女を探しつつフェイルゼイン商会本拠を制圧する。王都外の生き残りにも連絡を取り、外縁の森にて王女の捜索を頼む。何か異存があれば連絡してくれ」
ガイツが通信を切る。
イミアは傍の瓦礫に置いていた帽子を拾い上げ、砂ぼこりを叩き落とした。
「……キース君」
「は――はい!」
「体に不調はありませんわね?」
「――大丈夫です。まだ戦えます」
「ええ。まだまだ――負けたわけではありませんものね」
紺色の魔術師は、とんがり帽子をかぶり直した。
(…………さて)
慌ただしくなった周囲を眺め、ガイツは大きく息を吸って目を閉じる。
(王女の行方。裏切者の正体。迫る大男。現状、我々でどうにかできることは……)
目を開け。
その先で自然と、ビージ・バディルオンと目が合った。
「……どうかしたのか」
「あいや、すんません。別にこれといって」
「そうか」
「…………なんか。変わったっすね、兵士長」
「 、」
「や、あの、変な意味じゃなくて、っすね……意外な感じで」
「ほんの数週間前までいがみ合っていたアルクスと共闘しているのがか?」
「はい」
「おかしなことを。共闘はこれで二度目だろう」
「…………あ、」
「何だ」
「いや。意外っていうより……嬉しいって感じだなと思って。そう、嬉しいっす。少し前まで、お互いに胸倉つかむ勢いで対立してた兵士長とアルテアスが……一緒に魔術師長にむきあってるんすもん」
「…………。仕事に戻れ」
「はい。……頼りにしてます、兵士長。俺、今度こそ足を引っ張らねえよう、やります!」
プレジアの戦いで黒装束に気絶させられたビージが、息巻いて去っていく。
どこか心地よい気持ちを無理矢理意識から追い出し、ガイツは懸案に考えをめぐらせ始めた。
◆ ◆
「きたわ。あねさま」
「……来やがったぜ。姉貴」
「来たのね。よし、それじゃあ」
「媚びのひとつくらい、かけときましょっか」




