「長き埋伏の毒」
もがきあうサイファスとマリスタを冷めきった目で見つめていたイミアが、ガイツからの声で目線を外す。
「続報だ、魔術師長殿。……ギリート・イグニトリオが発見、医療施設に回収されました」
「――イグニトリオ君がッ!!? イグニトリオ君も生きてたんですかッッ!!」
サイファスの顔を押しのけ、マリスタが彼の腕から身を乗り出す。
ガイツはマリスタを一瞥し、――報告を続けた。
「……全身の骨と臓器に損傷があり、首の骨も折られているとのことです。……手の施しようは、無いと」
「…………え、」
「そうですか。確かイグニトリオの子どもは、あの大男をプレジアの教師より前に足止めしていた、のでしたわよね」
「通信を聞いた限りでは」
「……ハッ。見事ではありませんか。どこかの誰かと違って、役割をわきまえていたようで」
「――フッッ――ザけんなよマジでッ!!!」
「うっ!? マ――リスタッ!」
「ぐぁうっ!」
サイファスの腕の中で瞬転を使ったマリスタがイミアへと飛び――――腕を巻き込まれたサイファスはそのままマリスタのローブをつかみ、ギリギリのところで瞬転の速度を殺し、マリスタを地面へと引き倒した。
「馬鹿ッ! 食ってかかってどうなるっ、何も変わりゃ――」
「なんでそんなにプレジアが憎いの!? 私が憎いの!?」
「ホラそうやって吐き違えて逆ギレる。私は戦いの場に相応しくない態度を――」
「だったらあんたもそうでしょうがっ!! この作戦中くらい協力する姿勢をどうして見せられないのよッ!!」
「あなたのような場違いが足を引っ張ってるからでしょうッ!」
「足引っ張ってるのはどっちよ――なんであんたなんかにそこまで言われなきゃならないんだッ!! あんたらの側が王女をっ、」
「! 黙れマリスタッ」
「ココウェルを裏切ったかもしれないのにッッ!!!」
「それ以上言うなッ!!」
「うぅうっ!!!」
葛藤に顔を歪めたサイファスが、とうとうマリスタの頭を地面へと押し付ける。
マリスタは無理矢理に口をつぐまされた。
しかし、もう取り返しはつかない。
イミアの目が、完全に不信へ染まる。
「……言ってしまいましたわね。誰もが言わずにいたことを、なんの配慮もないまま」
「――!」
マリスタが周囲を見渡す。
そこにいるのは、フェイルゼイン商会と戦う戦士達。
否。
プレジアとリシディアという、疑心暗鬼。
「その言葉。そっくりそのままお返しいたしますわ――あなた達なのでしょう? 王女を売り、この国を内から破壊し尽くすクーデター最後の総仕上げ係。ねぇ――――プレジアの皆々様ッ!!」
イミアの手に。
風の刃が、渦巻く。
『!!!!!!!!!!』
「ちょ――ちょっと、」
誰もが、手を上げる。
その手に武器を持つ。
その武器を――プレジアを狙う者へと向ける。
「――――そんな」
眼前で鳴る、風の刃。
唯一微動だにしなかったガイツは、その向こうにいるイミアを静かな目で見つめた。




